5.標準作業の実践 標準作業書の作成
5-2.標準作業書の作成
5-2-1.標準作業書とは
「標準作業書」は各工程の手作業時間、歩行時間を明確にして、タクトタイム内で、作業者1人がどれだけの範囲の工程を担当できるかを検討するものです。また自動加工時間を記入して、その組合せ作業が可能かどうかを確認できます。「作業標準書」の作成により、作業時間が可視化され、改善の狙いが明確になります。
「標準作業書」には、1人の作業者の「作業順序、作業内容、作業時間」を記入します。作業時間は「手作業時間、自動送り時間、歩行時間」に分けて記入し、記号により線図で表します。これを「人・機械稼動線図」(マン・マシンチャートとも言う)と言い、「標準作業書」(用紙)の中央部に線図で記入します。
さらに併記された機械配置図には1人の作業者の「作業順序、標準手持ち数、品質チェック、安全注意」などを記号や注意事項で表した「人の動き線図」があり、これらを「標準作業書」(用紙)の右側に書きます。
これは監督者が作成するのを原則としているので、監督者は全ての工程の内容を熟知していなければなりません。
5-2-2.工程別能力表の作成
1)工程別能力表とは
「標準作業書」を作るには、先ずその部品についての工程ごとの生産能力を「工程別能力表」にまとめます。
「工程別能力表」は部品を各工程で加工するときの各工程の生産能力を表すもので手作業時間、機械の自動加工時間、刃具交換時間などを記入し、その工程で何が問題なのかを認識し、改善の手掛かりとします。
2)工程別能力表の様式
「工程別能力表」は、GIF形式でダウンロードできます。ご活用ください。
3)工程別能力表の記入方法
- 生産数は定時間での必要数を記入する。
- 工順は加工工程の順序と同じ番号を記入する。
- 工程名称は部品が順次加工されて行く工程の名称を記入する。
- 同一工程で機械が2台ある場合は
工順 1-1 機械A
工順 1-2 機械B として、行を変えて記入する。
- 機械が多数個取りの場合は工程名称欄にその旨( )で記入する。
記入例 工程名A(2個取り)
- 或る頻度で、定期的に行う作業があるときは行を変えて記入する。
例1. 品質チェック(1回/5サイクル) 5秒 → 1秒/個
例2. 切粉払い (1回/4サイクル) 10秒 → 2.5秒/個
- 機番は使用設備の管理番号を記入する。
- 基本時間の説明
- 手作業時間は次の二つ(t1、t2)に分けて考えます。
t1:部品の取付け、取外しなどで機械を止めなければ出来ない手作業時間で、例えば旋盤加工でのワークの脱着時間など。
t3:自動加工中に出来る手作業時間でパレットチェンジャー付きのマシニングセンターでのワークの脱着、インデックスマシンでのワークの脱着、加工中の測定、バリ取り、洗浄など。但し工程間の歩行時間は含まない。
- 自動送り時間
t2:機械の自動加工時間で、起動ボタンを押して加工完了後、各装置が原位置に復帰し停止するまでの時間。
- 完成時間:ある機械(工程)で1個(2個取りの場合は2個)の部品を完成させるのに必要な時間で、次式で表す。
完成時間 = 手作業時間t1 + 自動送り時間t2
注1)同一工程で2台以上の機械を使用している場合は機械別に完成時間を記入する。その工程としての完成時間の平均は求めない。
注2)t1、t2、t3などの時間値の測定方法(時間観測)に付いては次回の講座で説明します。
- 刃具:刃具交換は全ての刃具について、部品1個当たりの時間を集計する。
- 例)工具A:10分 ÷ 100個 = 0.1分/個
工具B:15分 ÷ 200個 = 0.075分/個
集計 0.175分/個
- 加工能力とは1直当りの定時間内で加工できる機械ごとの最大加工数で、次式による。(小数点以下切り捨て)
例)工順1の加工能力 = 480(分) ÷ (1.2分+5/90分)/個
= 480 ÷ 1.256分/個 = 382個/定時間
5-2-3.標準作業書の作成
1)標準作業書の様式
「標準作業書」は、GIF形式でダウンロードできます。ご活用ください。
2)標準作業書の記入方法
- ライン名、品番 : 対象部品のライン名、品番を記入する。
- 分解番号 : 1つのラインに何人かの作業者がいて、その中の何人目かを表す。
例)1人作業のとき … 1/1
3人作業の2人目 … 2/3
- 必要数 : 1直当りの必要生産数を記入
タクトタイムの時間値を赤線で、作業時間欄を縦断するように、上から下まで引く。
- 正味時間 : 作業者1人の標準作業での1サイクルの作業時間を言う。
手作業時間(t1,t2)に歩行時間を加えたもの。
- 順序 : 作業順序を1から順に記入する。
- 機械名 : 2行書きで上段に機械名、下段に機械番号を記入する。
- 作業内容 : 作業内容を記入。
例)ワーク脱着・起動、寸法測定、完成品箱入れ
- 作業時間:(時間の単位は秒)
- 「手作」欄には手作業時間t1、t3の時間を行を変えて記入
- 「自動」欄には自動加工時間t2を記入
- 「歩行」欄には工程間の歩行時間を記入
- 稼働線図の記入
・手作業時間 :(枠線)
・自動加工時間:(点線)
・歩行時間 :(細線)
・手待ち時間 :(矢印)
3)人・機械稼動線図(マン・マシンチャート)の記入
【例1】(数字の単位:秒)
上記の説明
- 第1工程でワーク脱着t1=10秒、自動加工t2=60秒、歩行3秒で第2工程へ
- 第2工程でワーク脱着t1=20秒、自動加工t2=90秒、歩行3秒で第3工程へ
- 第3工程でワーク脱着t1=10秒、自動加工t2=30秒、歩行4秒で第1工程へ
- 第2工程の自動加工はタクトタイム120秒の時点で折り返す
120-33=87 で3秒不足、
この3秒は起点より折り返すが10秒の余裕あり
… 自動加工については問題無し
- 手作業は50秒後に第1工程に戻るがタクトタイム線まで70秒有るので、これが手待ちとなる。従って更に70秒の手作業を与えることができる。
【例2】(数字の単位:秒)
注)赤字1~は工程順序を示す
上記の説明
- 第1工程、手作業t1=18秒、自動加工t2=62秒、歩行3秒で次工程へ
- 第2工程、手作業t1=22秒、自動加工t2=57秒、その場で手作業t3=32秒、手待ち15秒、マシンの余裕11秒有り
- タクトタイム90秒を無視すれば79秒で回れ、手待ちも4秒となる
【例3】正味時間 = T/T(タクトタイム) の場合
第4工程の作業完了後、第1工程にT/Tと同一時間で戻る場合
【例4】正味時間 < T/T の場合
第1工程に、T/Tより小さい時間で戻り、手待ちが発生する場合
【例5】正味時間 > T/T の場合
第1工程にT/Tをオーバーして戻り、能力不足が発生する場合
注)サイクルタイムがタクトタイムをオーバーする場合、自動送り時間は「サイクルタイムオーバー線」まで行って折り返す。
【例6】同一工程に戻る場合
工程1→2→1→3と作業しているとき、
同一工程1へ戻る場合の線図は1工程の同一線上に記入する。
【例7】自動加工中の手作業の記入
【例8】予約自動が出来て、いつも加工している場合
(インデックスマシン、トラマン、パレチェン付きマシニングセンターなど)
【演習1】
事例を参考に「人・機械稼動線図」(マン・マシンチャート)を作成して下さい。
注1) t1、t2、t3については
「5-2-2.工程別能力表の作成」の 2)-(5)-①②を参照下さい。
注2) 時間の単位:秒
第1工程 t1=5 t2=100 t3=10 歩行=2
第2工程 t1=10 t2=90 t3=15 歩行=2
第3工程 t1=15 t2=90 t3=20 歩行=2(戻り)
1) 第1工程に戻る時間は何秒ですか。 答:81
2) 物の完成時間は何秒ですか。 答:105
3) 手待ちは何秒ですか。 答:24
【演習2】
第1工程 t1=10 t2=100 t3=10 歩行=2
第2工程 t1=10 t2=100 t3=10 歩行=2
第3工程 t1=10 t2=100 t3=10 歩行=2(戻り)
1) 第1工程に戻る時間は何秒ですか。 答:66
2) 物の完成時間は何秒ですか。 答:110
3) 手待ちは何秒ですか。 答:44
【演習3】
第1工程 t1=10 t2=100 t3=10 歩行=2
第2工程 t1=10 t2=100 t3=10 歩行=2
第3工程 t1=10 t2=110 t3=10 歩行=2(戻り)
1) 第1工程に戻る時間は何秒ですか。 答:66
2) 物の完成時間は何秒ですか。 答:120
3) 手待ちは何秒ですか。 答:54
「人・機械稼動線図」(マン・マシンチャート)を作成し、FAXしていただければ見直してお返しします。(FAX 0493-24-7889)
注) 用紙は「標準作業書」を使用し、1枚の用紙に演習1~3の線図を書いてください。
4)作業順序の決定手順
- 作業時間の時間軸に算出したタクトタイムの時間を赤色の縦線で引く。
タクトタイムの時間値を赤字で記入する。
- 1人当りの作業範囲を決める。
赤い線で示したタクトタイムに、ほぼ等しくなるような手作業時間t1とt3の合計を工程別能力表から順に求めて、これに歩行時間を加算して1人あたりの工程範囲を見積る。
- 作業内容の欄に、各工程の手作業内容を簡潔に記入する。
例)NC旋盤ワーク脱着、ボール盤穴あけ、洗浄・箱詰め
- 時間の欄に、手作業時間、自動送り時間、歩行時間を記入する。
- 上記の手作業時間、自動送り時間、歩行時間を稼動線図として表示する。 (手作業時間: 自動送り時間: 歩行時間:)
注)標準作業書の稼動線図記入スペース(横方向、約180mm)とタクトタイム(例えば100秒とすると)から1秒の長さを決めます。
180mm ÷ 100秒 = 1.8mm/秒 → 1.5秒とする。
例)t1=20秒なら t1 = 20 ÷ 1.5 = 13.3mm
t2=30秒なら t2 = 30 ÷ 1.5 = 20mm
歩行=3秒なら 3 ÷ 1.5 = 2mm
- 全工程の稼動線図を記入する。
- 作業の組合せが成立するか見直す。
自動送り時間がタクトタイムの時間軸を越えたときは、残りの時間を0点から引くが、これが同一工程の手作業に重なれば、この作業の組合せはタクトタイム内での作業は成立しなくなる。(下図参照)
この場合は作業順序を組替える必要が有る。
- 作業量が適正かどうか見直す。
- 最初の作業に戻った点がタクトタイムの赤い線と合致すれば、その組合わせは適当といえる。
- タクトタイム線の手前で作業が終わっていれば、作業量が少ないことになる。
- また逆の場合は、作業量が多く定時間内で生産達成ができない。
何れの場合も、作業の組合せの見直しが必要です。
5)人の動き線図の作成
「人の動き線図」は機械配置を図示し、標準手持ち、安全注意、品質チェックをどこで、どんな方法で行うかを数字または記号を用いて表し、1人の作業者の動きと共に記入する。
この「人の動き線図」を見ることで、作業者が指示された通り正しく作業を行っているかを見ることが出来、標準作業そのものに新しいムダや欠陥が見出せないかを追求することが出来ます。
「人の動き線図」の記入説明
- 作業順序
機械配置図に「人・機械稼働線図」に示された作業順序に従って、順番付けを行い、これを実線で結ぶ。最後の作業から最初の作業への戻りは破線で表示します。
- 品質チェック
品質チェックが必要な機械(工程)には印を記入する。
- 安全注意
安全注意が必要な機械(工程)には印を記入する。
- 標準手持ち
作業順序通り作業を行っていく上で、どうしても必要な手持ちを「標準手持ち」といい、機械(工程)に置かれる位置に、加工前のものには印、加工中のものには印を記入する。
- 標準手持ち数
加工前、加工中の標準手持ち数を記入する。
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