① 現場のムダ取りが容易
現場改善でのムダ取りに関する書物には、「トヨタ7つのムダ」に照らして、ムダ取りをしたり、作業者の動作は「動作経済の原則」に則って改善すると良いとも書かれています。しかし現場作業を観察しながら、この作業がどれに該当するか考えながら改善するわけにも行かないと思います。
また現場を観て、あそこに「手待ちが有る」「取り置きのムダが有る」「…のムダが有る」とメンバー全員で問題点を挙げ、それらを全部つぶしていたら、そのラインの改善活動がいつ終わるか分からなくなります。
現場改善ではラインに存在するムダを全部取るのではなく、そのムダ取りにより少人化が進んだり、ネック工程が解消されたりして成果に結びつくものを優先して取るべきだと思います。ムダ取りをしても手待ちが増えるだけのこともあるからです。現場のムダ取りでは、メンバー全員で現場へ行き、問題点を抽出する方法も有りますが、人の目は職場全体が見えてしまいムダが見えないことが有ります。これがビデオでは限られた画面きり見えないので、ムダが良く見えてくるからです。でも現場は何度も肉眼で観ることが大切です。
② 作業時間の観測が容易
現場のオペレーターの繰返し作業の作業時間はストップウォッチで観測することも出来ますが、数秒の要素作業までは、よほど熟練した人でないと出来ません。その点ビデオなら誰でも要素作業に分析したり、時間測定をすることができます。また静止画面やスロー画面にすれば目では判らない動作の分析も出来ます。例えば測定機器が無くても、機械の回転数や送りも測定できます。
ビデオ画面を観ながら要素作業時間を分析する方法について述べます。要素作業とは、作業者が行う繰返し作業を細分化したときのまとまり作業のことです。例えば下表の例では「分析単位」欄の作業が要素作業です。
例えば、「ペンを取る」がそれですが、もっと細分化すれば、「ペンに手を伸ばす」「ペンを掴む」「ペンを掴み変える」「掴んだペンを移動する」ということになりますが、通常は「ペンを取る」程度の分け方で良いと思います。但し、「ペンを取る」という動作を改善したいときは、要素作業の細分化が必要です。
例として、「或る人が椅子から立ち上がって、電子黒板に行き、ペンを取って字を書き、元の椅子に座る」場合で、要素作業の分析単位と観測点を説明します。
分析単位とは、要素作業の区分のことです。
観測点とは、要素作業の動作が完了した瞬間の時間(時刻)のことです。
№ | 分析単位 | 観測点 | コメント |
---|---|---|---|
1 | 椅子から立つ | 椅子から立ち上がった瞬間 | 立ち始めてから立ち上がった瞬間まで |
2 | 歩く | 黒板まで行き終わった瞬間 | |
3 | ペンを取る | ペンを取った瞬間 | つかみ直す時間を含む |
4 | 字を書く | 字を書き終わった瞬間 | |
5 | ペンを置く | ペンを置いた瞬間 | |
6 | 歩く | 椅子まで戻った瞬間 | |
7 | 腰をかける | 腰をかけた瞬間 | |
8 | 椅子に座る | 椅子から立つ瞬間まで |
上の例では、要素作業を8区分していますが、これを1区分にして、「字を書く」とした場合、何を改善したら字を書く時間が短縮できるか分かりません。8区分してあれば、歩行距離に問題があるのか、ぺんの置き方に問題があるのかが分かり、改善が進めやすくなります。
また旋盤作業での「ワーク脱着」を下記のように
のように要素作業を8区分し、それぞれの時間を測定しておけば、何を改善すれば「ワーク脱着」の時間が改善できるかが分かりますが、これを「ワーク脱着」が15秒と分析したのでは、何を改善すれば脱着時間が減るのか分からないと思います。
注)8区分より、もっと細かく区分することもできます。
ビデオ画面を観て、オペレーターの繰返し作業を要素作業に細分化します。その要素作業を『作業時間分析表』(F-05)に記入します。
作業時間分析表の記入要領
『作業時間分析表』(F-05)は、GIF形式でダウンロードできますので、ご活用ください。このフォーマットはA4サイズに縮小して使用して下さい。
1人作業の場合もありますが、ここでは事例として5人(5工程)の作業についてそのまとめ方を説明します。先ず各工程の要素作業時間の合計を求めます。この要素作業時間を合計したものを「基準時間」と呼ぶことにします。
作業時間 集計結果 | 第1工程 | 20秒 | ロス | 5秒 |
(各工程の基準時間) | 第2工程 | 18秒 | 7秒 | |
第3工程 | 25秒 | 0秒 | ||
第4工程 | 20秒 | 5秒 | ||
第5工程 | 15秒 | 10秒 | ||
合計 | 98秒 | 27秒 |
【作業配分表】
= 78.4% … 21.6%の編成ロスが有る
注)ライン編成効率は、ラインバランス効率とも言う。
ラインには色々なロスが存在します。例えば前項で述べたライン編成ロスやチョコ停不良、手直し、段取り替えなどのロスのため基準時間通りには物が造れません。それらのロスがどの程度存在するかを見るのに「ライン総合効率」が有ります。
∑基準時間(分/個)… 全工程の基準時間を合計したもの
工数原単位(分/個)= 人の負荷時間 ÷ 生産実績数 … 式a
注)工数原単位(分/個)とは部品(製品)1個を造るのに要する人の作業時間で、この時間をいかに小さくするかが本活動のテーマでもあります。
人の負荷時間 = 総稼働時間 - 管理不能時間(朝礼、会社行事など)
式Aを書き換えると
式Bから判るように、工数原単位を小さくする(↓)には
① ∑基準時間の短縮(↓)
② ライン総合効率の改善(↑)(100%に近づける)
この二つを並行して改善することで、生産性30%以上は容易に達成できます。
前項の「作業配分表」の例では
∑基準時間 = 98秒 = 1.633分
工数原単位 = 150秒 = 2.500分(仮定の時間)
この場合のライン総合効率は
ライン総合効率 = 1.633 ÷ 2.500 = 65.3%
となりますが、このライン総合効率(稼働率)= 65.3% は何を意味するかというと、ライン全体で34.7%のロスが有るということです。
その要因としては
① ラインバランス(ライン編成効率)が悪い … 21.6%の編成ロス
② 立ち上がり、チョコ停、段替え等の7大ロスが考えられる … 16.7%
この例では、物は 25秒 × 5工程(人)= 125秒 = 2.083分 で造られる訳なのに、実際は2.500分掛かっているので、ロスの割合は
(2.500 - 2.083)÷ 2.500 = 16.7%
従って、今回の生産革新活動の展開では、繰返し作業のビデオ撮りによるムダ取りで「基準時間の短縮」を図り、また稼働率の見直しにより、「ライン総合効率」の改善を進めることで大幅な工数削減を実現し、飛躍的な生産性の向上を達成しようとするものです。
プレス、ダイカスト、マシニングセンター、単軸バーマシンなどの多台もちラインのビデオ撮りは1人の作業者に密着して、1時間以上にわたり、全作業を撮影します。要素作業の分析もライン化されたラインと同様ですが、要素作業の区分は少し粗くていいと思います。交代勤務の場合はどちらかの作業者の動作を撮り、他の機械群を看ている作業者が居ればその人についてもビデオ撮りし、『作業時間分析表』(F-05)にまとめます。
ムダ取りはラインの場合と全く同じです。多台持ちラインにも色々なロスが存在します。 例えばチョコ停、不良、手直し、段取り替えなどのロスのため基準サイクルタイム通りには物が造れません。
それらのロスがどの程度存在するかを見るのに「ライン設備総合効率」が有ります。
工数原単位(マシン)= 機械の全稼働時間 ÷ 生産実績数 (単位:分/個)
注) 工数原単位(マシン)(分/個)とは、部品(製品)1個を造るのに要する機械の作業時間です。
機械の全稼働時間 = 総稼働時間 - 管理不能時間 + 無人運転時間
管理不能時間 … 朝礼、会社行事、その他で自ラインの責任外のライン停止時間
式Cを書き換えると
式Dから判るように、工数原単位(マシン)を小さくする(↓)には
① 基準サイクルタイムの短縮(↓)
② ライン設備総合効率の改善(↑)(100%に近づける)
この二つを並行して改善することで、機械についても生産性30%以上は容易に達成できます。これにより時間当りの出来高が改善され、加工費の低減が図れます。
基準サイクルタイムの短縮はワークの脱着方法や加工そのものの徹底的ムダ取りにより、またライン設備総合効率(稼働率)の向上は、いわゆる7大ロスの排除により改善出来ますが、これらの数値には人の作業時間が入っていないので、多台持ちの持ち台数を減らして、何も改善しないでも、ライン設備総合効率が見掛け上良くなり、工数原単位(マシン)が改善された形になります。これを避けるため、多台持ちラインでは工数原単位(マシン)の改善だけでなく、機械を扱う人の工数原単位(マン)も削減されていることを確認する必要が有ります。次式で工数原単位(マン)の削減を月次管理して下さい。
注)総生産実績数 … 多台持ちしている機械での生産実績数の総和
例えば、ある人が480分作業して、5台の機械を扱い総数で1,000個の生産をした場合は
工数原単位(マン)= 480 ÷ 1,000 = 0.48分/個となります。
または、人の作業時間(480分)を多台持ちした機械に割り振って、それぞれの機械での生産実績数で計算します。異品種生産の場合はこれが良いと思います。