ここで人と機械の動作について考えてみます。
ムダとは、『人・機械の動きで、時間が経過しても付加価値を生まない動作』です。即ちコンマ数秒でも時間が経過したとき、部品の形がより完成品に近づいたかどうかで『ムダな動作』と『付加価値を生む動作』の判断をします。
人でも機械でも動作は三つに区分できると思います。
付加価値部分 | 非付加価値部分 | |||
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動作の3区分 | ①価値を生み出す動作 | ②価値を生まないが現状では必要な動作 | ③価値を生まない不必要な動作 | |
コメント | ①この動作は殆ど機械が行っている ②この動作にもムダが有るのでネック工程ではムダ取りが必要 | ①この動作はいつかは排除するという執念が必要です ②改善により削減する | ①ムダな動作で直ぐにでも取れる動作 (直ちに取ること) | |
事例 | 人の動作 | ①手で塗装する(塗っているとき) ②部品を組付ける(組付いた瞬間) | ①塗料缶から塗る場所まで刷毛を移動する ②部品箱から組付け位置まで部品を運ぶ | ①遠くにある塗料缶へ刷毛(手)を伸ばす ②部品箱が深くて取りにくく時間がかかる |
機械の動作 | ①ドリル加工で切粉が出ているとき ムダの例 ①切削条件、工具材質切削油等が不適当で切削時間が長い ②手送りでの穴あけ加工(自動送りにする) | ①ドリルが加工部位に当たるまでの動作 ②ドリルが戻る動作 ③工具交換の動作 | ①加工部位の遥か手前からの切削送り動作(エアカット)②NC機でのプログラ不備によるムダな動作 |
「6-2-3.5)要素作業時間の分析」で作成した『作業時間分析表』の要素作業欄の全要素作業について、どの動作区分に該当するか考えて、徹底的なムダ取りをします。
例えば
現状ラインの設備や作業のやり方を無視して、現状ラインの【あるべき姿】をもう一度考えてみて下さい。この製品のライフサイクルを考慮し、世の中での最高の造りかた、流し方を皆で検討してみて下さい。とは言っても現有設備を捨てるわけには行きませんし、現場改善は設備改善では有りませんので改革案の作成に当たっては【あるべき姿】を思い浮かべながら、小改善から脱皮して画期的な改革を実行してください。
現状値が下の表の場合、改革案で約40%の工数削減を狙ったとして、総基準時間とライン総合効率の狙い値をそれぞれ▲22%、+20%と置き、これに対する改革案を作成します。総基準時間の削減は要素作業の徹底的ムダ取りで達成します。
工数原単位(分/個) | 総基準時間(分/個) | ライン総合効率(%) | |
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現状値 | 2.500 | 1.633 | 65.3 |
改革案(狙い) | 1.500 ▲ 40% | 1.275 ▲ 22% | 85% +20% |
目に見える繰返し作業(基準時間)と、見えにくい稼働率(ライン総合効率)の双方の改善を並行して行うのが現場改善で、確かな成果を上げる方法かと思います。
人の要素作業は付加価値を生まないムダな動作が殆どですし、機械の動作も良く観るとムダがかなり有ります。
考え方としては、全ての要素作業を無くすくらいの意気込みで改善・改革案を考え、徹底的なムダ取りを行ってください。
改善案を出すうまい方法はこれと言って有りませんが、その動作を無くすにはどうしたら良いか真剣に取組むことです。さらに先進企業を見学したり、機械雑誌、書籍、機械や治工具のカタログ等々から情報収集し、絶えず改善力を高め、実践活動で経験を積むのが良いかと思います。
改革案は『作業時間分析表』(F-05)の改革案の欄に記入して下さい。ライン総合効率の改善は、作業者間のラインバランスの見直しや立ち上がりロス、チョコ停段替えロス等の7大ロスをつぶします。これについては次回の講座で取り上げます。
改革案を実施したらどのくらいの時間短縮になるか、見積る必要が有ります。正確に見積るのでしたら、既定時間法(PTS法)のWF法、MTMなどが有りますが、時間が掛かって大変です。私は時々M0DAPTSを使うことも有りますが、これでも大変です。簡単な方法として、精度は悪いですが、改善されたことを想定して自分で数回動作して、その時間をストップウォッチで測ってはどうかと思います。見積りに時間を掛けないで、少しでも早く改善活動に入って下さい。
総基準時間の狙い値を達成するにはどの改善アイテムを実行したら良いか、メンバー全員で話合って決めます。改善案を全て実行するのではなく、あくまで狙い値を達成することにします。これを『作業時間分析表』(F-05)の「今回の実施案」にまとめ、誰が何時までに実行するかを決めます。活動当初に作成した『生産革新活動スケジュール表』(F-04)の内容、スケジュールを見直して、全員で活動に入ります。
日々の生産活動の実績は『質・量・コスト管理表』により管理し、工数、品質、仕掛りなどが狙い通りに改善されているか確認し、不足であれば実施案の見直しをします。
まとめ
加工・組立ラインの生産革新活動を会社方針とリンクさせて、推進体制を整え、年度計画により実施することをお願いしました。
現場改善では、ビデオ撮り → 要素作業分析 → ムダ取り → 改革案の作成 → 実践について、1つの進め方、定石を私なりの体験からまとめてみました。根底にあるのは徹底的なムダ取りです。将棋でもそうですが、定石を覚えても少しは上手になりますが、有段者になれるとは限りません。改善でも日々の勉強の積み重ねかと思います。いかにお金を掛けないでムダを取るかが大切です。頑張ってみて下さい。
もっと画期的な方法でやられている会社も有るかと思います。そのような方法を是非勉強したいので、ありましたら教えて下さい。
困っていること、ご質問が有りましたら、メール(fwga9771@mb.infoweb.ne.jp)を戴ければ判る範囲でお返事します。
ご参考
改善・改革活動を推進して行く上で、小道具を必要とすることがあります。日頃から自社の改善に必要と思われるパーツのカタログを集めることをお勧めします。何れのカタログ誌も年間購読料の表示はありますが、無料ですので自社に合ったカタログ誌を活用されては如何ですか。この表以外にもあります。
カタログ誌 | 出版社 | TEL |
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IEN | (株)インコム | 03-3260-7871 |
メカトロニクス | (株)技術調査会 | 03-5620-1441 |
M&E | 工業調査会 | 03-3817-4701 |
FORUM | 日工フォーラム社 | 03-3233-3981 |
IPG | コスモ・リバティ社 | 03-3368-7111 |
新製品情報 | 日刊工業新聞社 | TEL:03-5644-7290 FAX:03-5644-7299 |
お詫び
次回講座として『カンバン方式』を取り上げる予定でしたが、昨今の新聞報道や技術雑誌によると「電子かんばん」に切り替わっているとのことで、当方の知っているものとかけ離れているので取り止めさせていただきます。
「かんばん」について勉強したい方に参考まで下記書籍をご紹介します。
発売 日刊工業新聞社
書名 実践 トヨタカンバン方式 1,240円
著者 関根 憲一 先生
これ以外にも良い書籍がありましたら教えて下さい。