前回の講座では、加工ラインであれば、素材の投入から加工完了まで、組立ならば部品の投入から組立、出荷までの全工程設備を工程順に並べ、淀みのない川の流れのようなラインを構築することにより、工程内に存在するムダを顕在化して、改善・改革を推進することをお話ししました。
今回はこのようにして構築された1個流しラインで、ムダの無い作業をするための仕組みづくりについて考えてみます。
人と物と設備の最も効率良い組合せを考えて、良い物を、より早く、安全に、ムダの無い作業が出来るように、「タクトタイム」「作業順序」「標準手持ち」の3要素を決めそれに基づいて行う作業が【標準作業】です。
そして常にムダ取りを行い、それを標準類に反映するサイクルを確実にまわすことが大切で、こうすることでラインの生産性を飛躍的に改善することが出来ます。
この「標準作業」は繰返し作業が行われる加工、組立ラインに適用され、1人ラインでも複数人のラインでも構いませんが或る時間内で、繰返し作業がなされることが必要です。例えばプレスの多台持ちラインのように材料供給や完成品の処理などの作業が不定期に発生する場合は不適です。この場合は別の攻め方で改善を進めます。これに付いては次の講座で取り上げます。
この【標準作業】を確立することによって、次ぎの事柄が明確になります。
標準作業と作業標準とはよく混同されることがありますが、別個のものです。
【作業標準】は標準作業を行うための諸標準のことで、例えば切削速度、送り、工具の形式・形状、切削油の種類などで、作業上の経済的な条件を標準として決めたものです。
これに対し、【標準作業】は製品を造るための標準であることは同様ですが、「サイクルタイム」「作業順序」「標準手持ち」の3要素が何一つ欠けても成立しません。そしてこの「標準作業」は主として監督者自身が作成し、作業者に指導し守らせるものなのです。
「タクトタイム」とは毎日の生産の中で製品1台あるいは部品1個を「何秒で造らなければならないかという時間のこと」で、必要数量と稼働時間によって決まります。
タクトタイム=1日当りの稼働時間÷1日当りの必要数量 (秒/個)
「タクトタイム」には、余裕率は見込まないで、単純に上記の式で求めます。
例えば、1日の稼働時間が480分で必要数が1,000個のときのタクトタイムは
480分 ÷ 1,000個 = 0.48分/個 = 28.8秒/個
となります。即ち28.8秒に1個、物を造れば良いことになります。
製品が完成するまで、つまり材料から製品になるまでの過程で作業者が物を運び、機械に取付け、加工(注)し、取外したりして「時間の流れと共に最も効率的な作業をして行く順序」を「作業順序」と言います。
(注)加工には塗装、溶接、組立などあらゆる作業が含まれます。
マクロ的に見た「作業順序」について説明しますと、下図は作業者1人で、部品A、Bの2ライン持ちの例ですが、
部品A、Bの工程は共に左から右へ流れますが、人の作業順序はB部品では物の流れに一致していますが、A部品では物の流れに逆行していて、一致しないことがあります。即ち作業順序と工程順序は必ずしも一致しません。
次にミクロ的に見た「作業順序」ですが、例えば組立の或る工程でA、B、Cの3部品を組付けるとき、最も効率の良い組付け順はA、B、Cだが、C、B、Aの順にも組める場合、どの作業者もA、B、Cの順序で作業しているかです。
もしこの「作業順序」が明確でないと各人が好き勝手な順序で作業を行い、その都度作業順序が異なり、どれが必要でどれが不必要な作業なのか分からなくなります。また加工忘れや寸法違いの不良品が後工程に流れることになります。
従って、「作業順序」は現状作業を十分把握し改善して、最もムダの無い手順とし、「守りやすい、守れる作業順序」を決めることが重要です。
同じ手順で繰返し作業が出来るための必要最小限の手持ちのことで、「これより多くても少なくてもいけない」工程内の仕掛り品のことを言います。
例えば、
この「標準手持ち」はレイアウトや作業順序の決め方によっても変わってきますが決められた「標準手持ち」に達したら、作業を止めることが大切です。
そうすれば造りすぎのムダも無くなるし、作業者間の作業量のアンバランスも一目で判るようになります。
工程間に標準手持ち以外の仕掛りを持たない「1個流し」が重要です。
【作業内容】 | 【作業工程】 | 【標準手持ち数】 |
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①機械が自動送りで人の動きが順方向 | 加工前 0個 加工中 2個 | |
②機械が自動送りで人の動きが逆方向 | 加工前 2個 加工中 2個 | |
③機械が手動送りで人の動きが順方向 | 加工前 0個 加工中 0個 | |
④機械が手動送りで人の動きが逆方向 | 加工前 2個 加工中 0個 |
注1)上記②④のように、人の動きが工程の進みと逆方向の場合はシュートなどを使用して、加工前の「手持ち(工程間仕掛り)」を確保していないと、加工完了品を後工程に送った後、未加工品を前工程に取りに行かないと、その工程の部品取付けが出来ないムダが発生します。
注2)この標準手持ちの考え方は組立ラインにも適用されます。