( 初出:日刊工業新聞社「プレス技術」 第39巻 第8号 (2001年8月号) )
執筆者 内原康雄
ペッカー精工は埼玉県の中央部に位置する東松山市の工業団地にあるモールド金型メーカーである。その社名の由来について、同社の小泉秀樹社長に訊ねた。
「私どもの会社は金属を彫ります。それでキツツキに重ね合わせてペッカーと先代社長が命名したのです」
先代社長は明輝製作所で金型技術を学んだ後、1968(昭和43)年に同社をスタートさせた。77(昭和52)年にはマシニングセンターを導入し、3次元を駆使したモールド金型を製作するようになった。
現在、ペッカー精工で陣頭指揮をとっているのは二代目の小泉社長(35歳)である。先代から引き継いだ技術力をさらに発展・拡大する路線で事業を継続している。
小泉社長は大手家電メーカーで3年間、プログラマーとして活躍してきた。Basic、COBOLなどの言語を使っていたそうだ。父である先代社長が病に倒れたことから、25歳でペッカー精工に入社した。
現場に入って、フライスをはじめ、旋盤、マシニング、仕上げ、3次元CADなど、現場をすべて経験してから社長に就任した。
要求されたモノはできると答えて、後はなんとかする。それが小泉社長の原点である。とは言っても、できないことはできないと明言する。要は新しいモノに果敢にチャレンジすることが必要だということである。
インモールド(成形品の中にフィルムなどを挟み込んで成形する。文字や絵柄を挿入できる。携帯電話のダイヤル番号部分など)、ホットランナー成形(マニフォールドなどをランナーレスで成形できる手法)、二色成形(異なる色・材質の部品を同時成形する加工法)、ハイサイクル成形(高速成形)、ガスインジェクション(成形時、樹脂の中に混じらない性質のガスを注入することで、真空成形のような効果を得る成形方法)、チクソモールド成形(半固体のマグネシウム合金の成形法)、エラストマー(新素材) など、新しい工法を常に取り入れている。
新工法への取り組みについて、小泉社長は、「いやァ、特に意識していません。強いて言えば自分が新しいもの好きだからでしょうね。それと当社の社員はともかく何を挑戦してもいつも付いてきてくれます。モノづくりが好きな人間が集まっているからでしょうね」と語る。若い世代が自然に技術を習得していくような環境がペッカー精工には根付いているのであろう。
小泉社長に社員教育について語ってもらった。
「ウチには特に社員教育はありません。強いて言えば、好きだから作るということですかね。ウチの面接には筆記試験は一切ありません。面接のときにプラモデルを作ってもらうんです。材料と小刀とヤスリを与えて、半日でプラモデルを製作してもらいます。するとそれぞれの個性が見えてくるのです。ダーッと早く作るタイプはマシニング仕上げに、凝るタイプは仕上げに向くというように、プラモデルを組んでもらうことで人の適性を見ます」
筆者はおもしろい試験方法だと思ったが、そこでは集中力や特性も見ているそうだ。
今年度は13人面接して、2人の新入社員を採用したとのことである。また、プラモデルの実技試験の成績だけでなく、話した時のフィーリングなども大切にしているという。
現場で8年の経験を積んだ小泉社長だけに、現場の重要性を重視している。大卒であっても一切の妥協は許さない、という徹底ぶりである。
最近の営業スタイルについても、
「僕がやりたいと思った仕事をお客さんにお願いして取ってきます。そして、多少難しい仕事でもともかくやり遂げようと社員にハッパをかけます。でも、ウチの社員はモノづくりの好きなスタッフが集まっているので、結果的には出来上がりますね。そういった意味では社員に絶対的な信頼を置いていますよ」
弱電・家電部品から、自動車部品、文房具など多分野に渡り、さまざまな工法に挑戦しているペッカー精工強みを垣間見た気がした。
ペッカー精工の生産設備を見ると、マシニングセンタは牧野フライス製作所、OKK、安田放電、ワイヤー放電加工機は三菱電機、ソディック、牧野フライス製作所と変則的である。
「これだけ複数の機械を並べるとたいへんじゃないですか?」
という筆者の問いに対して、
「欲しい機械は現場が決めるんですよ。その結果、いろいろな機械を導入するようになりましたが、ウチはすべて使いこなしていると思います」
モノづくりが好きだと言うことは、結果的に機械も好きでなければならない。それで、各種各様の機械が導入されたという。
確かに量産工場では生産性を考えれば多岐に渡るメーカーの工作機械を導入することは、一見良いこととは思えない。しかし、金型産業は一品一葉の業種である。多くの工作機械を使うことで、それぞれの特性を利用した金型づくりが展開できるのであろう。
同じように、3次元CADもCATIA(ダッソー)、FRESDAM(ソニー)、VISI(セイコー)、CADCERS(日本ユニシス)を使い、2次元CADも数種類使っている。
CATIAの導入については面白いエピソードを伺った。ペッカー精工の社員はほとんど全員が車好きで、なんとか車の部品を作りたいと思ったことから CATIAを導入したとのこと。そこで、車好きの小泉社長自ら、車のシートの仕事を受注してきて、自動車業界の標準3DであるCATIAを使って納入したというわけだ。
これまでの企業経営とは違ったまったく新しいスタイルの経営手法ともとれるが、筆者は、これこそがアジアの中で日本が生き残るスタイルだと確信した。
ペッカー精工のモノづくりスタッフの構成であるが、設計10名、NC工作機械10名、仕上げ10名という陣容である。
小泉社長にとってはIT(情報技術)も道具の一つでしかない。
「ウチは金型屋です。プログラムやCADデータを売っているわけではありません。設計、工作、仕上げが一体となって初めて商売ができるわけです。なかでもウチの技術の神髄は、磨きやトライなどの仕上げ工程にあります。より高度な金型製作を目指していくには、仕上げにどれだけ力が入れられるかですね」と語る。
ペッカー精工のホームページは、金型受入のためのデータ互換についての紹介ページなどが書かれている。最近ではインターネットを通じて、お客さんも来るようになった。
「問い合わせはかなり多くなってきましてね。その中から受注したものは3点で、1,800万円くらいになったものもあります。製品としては電話工事関連の部品です。今後はインターネットで知り合ったお客さんとの取引が多くなると考えています」
工場のIT化が政府主導で進められるなか、ITを手足のように使いこなしている工場、それがペッカー精工である。そこでは社長自身、自らNC工作機械を操作し、3次元CADを操る、という経験をもっている。
空洞化が叫ばれる金型業界がぜひとも参考にしたい新スタイルの経営感覚をもつ同社の将来に期待したい。
形式 | メーカー | 台数 | |
---|---|---|---|
NCフライス盤 | FMR-30 | OKUMA&HOWA | 1 |
AV2NC-85 | MAKINO | 2 | |
グラファイト加工機 | SNC-86-30A | MAKINO | 1 |
マシニングセンタ | GN106 | MAKINO | 1 |
GF6 | MAKINO | 1 | |
YBM-8120V | YASUDA | 1 | |
MCV660 | OKK | 1 | |
放電加工機 | M35-C6 | MITSUBISHI | 1 |
M65K-C7 | MITSUBISHI | 1 | |
EDNC43 | MAKINO | 2 | |
A50R | SODICK | 2 | |
ワイヤーカット放電加工機 | A500W | SODICK | 2 |
自動ミガキ加工機 | KM05 | OKK | 2 |
ダイスポッティングプレス | SDP-1007-50 | SANKI | 1 |
SDP-1310-100 | SANKI | 1 | |
成形機 | ROBOSHOTα150IA | FANUC | 1 |
ROBOSHOTα50IA | FANUC | 1 | |
3次元測定器 | BRTApex504 | Mitsutoyo | 1 |
株式会社 ペッカー精工 | |
---|---|
代表者 | 代表取締役 小泉 秀樹 |
創業 | 1968(昭和43)年5月16日 |
資本金 | 4,860万円 |
所在地 | 〒355-0071 埼玉県東松山市新郷88-34 TEL(0493)24-2261 FAX(0423)22-4420 |
従業員 | 35名 |
営業品目 | 金型・同部品・付属品の製造 |