第11回 有限会社 中野金型彫工舎

( 初出:日刊工業新聞社「プレス技術」第37巻 第5号(1999年5月号))

執筆者 内原康雄


今回の「デジタルファクトリー最前線」は、2次元CAD/CAM、3次元CAD/CAMシステムを駆使し、モールド金型製作を展開する(有)中野金型彫工舎を取り上げる。同社の製造品目は鉄道模型40%、自動車用エンブレム30%、弱電向け金型30%の比率となっている。社員数20名ほどの金型工場であるが、従来の手作業による磨き技術、経験による技術にプラスしてCAD/CAMを駆使した金型づくりを行っている。

中野金型彫工舎の金型技術

常務取締役 中野 誠氏


「当社の技術の大きな特徴は磨きとヤスリがけによる手作業です。CAD/CAM技術がどんなに進歩してもそれは変わりません。仕上げ作業が完全であってこそ、はじめて良い製品ができるのです。たとえば、当社の客先のおもちゃメーカーさんは当初、鉄道模型用金型を香港で作り始めました。いくつか製作した上で結局、仕上げの加工精度は日本が良いという結論で、いまだに当社を含め、国内で生産しています」
と自社の技術をこう語るのは中野誠・常務取締役である。
金型製作の最後の部分が仕上げであるという観点から、9割が機械加工に依存している現在でも仕上げの大切さを説いているわけである。
同社の高度な技術は、伊勢神宮御太刀、昭和天皇即位式御使用の太刀などの歴史的作品をはじめ、現社長に伝わる代々の伝統工芸技術に端を発する。現在は、彫刻工芸一品ものから射出成形金型、ダイカスト金型、工芸品、工業彫刻などの分野を展開している。
従来の経験による伝統技術を継承しながらも、NC工作機械など、新しい技術には常に積極的である。昭和50年には放電加工機の第1号機を、昭和58年にはマシニングセンター、と早くからNC工作機械の設備導入を行っている。
さらに昭和61年には2次元CAD/CAM、平成元年には3次元CAMの導入を行っている。伝統の工芸技術を身につけながら着実に新技術にも対応してきた。

CAD/CAMシステムの概要

同社の金型製造工程は、客先からもらった図面をMicro-CADAM(2次元、IBM)で金型図面をドラフトすることから始まる。そこで2次元CAD/CAMで加工可能な部分と、3次元CAD/CAMが必要な部分が決定される。
割合からいくと3次元を使うものは1割程度で、大部分が2次元加工で製作されている。2次元加工はMAPLE2D/CAD/CAM(MAPLE吉川)でNCデータを作成し、3次元加工はCADDS(日本パラメトリックテクノロジー)でNCデータを出力している。
また、最近では浜松合同の低価格CAD/CAMの精度実験も行い、低価格ではあるが、利用度が高いとの判断をし、今年中にはシステムに組み込まれる予定である。
この広範に渡るネットワークとCAD/CAMシステム構築を推進しているのは、NC加工部の新井氏である。
「我々、金型メーカーはモノを作るのが仕事なので、システムはつい追従するものになりがちです。うちのNC加工は現在4名で6台の工作機械を制御しています。当社の部品は細かい加工が多く、マシニングにのっけて30分で加工が終了、という製品が主流です。
現在の3次元の割合は1割程度ですが、今後増えていく予定なので、将来オペレーターが必要となります。工作機械の稼働率を満杯にするとしたら1台のMCに2名のCAMオペレーターが必要だと思います」(新井氏)
さらに今後の構想としては、「現在は加工者が自分の割り当てられた部品を空いている機械に乗せていくという方法を取っています。金型設計、NC加工、組立仕上げが完全に分業化されているので、そうならざるを得なかったのですが、今後は生産管理にも力を入れ、工作機械の稼働率を上げていくつもりです。もっとも仕事量があれば・・というのが前提ですが」と新井氏。
さらに、新井氏はこれらのシステムの構成について次のように語る。
「システムはWindowsNTをメインにWindows95、DOSが平行する環境になっています。これを早くWindows環境に統一したいと思いますが、変えたいとしても、バージョンアップに費用がかかるので、なかなか変えることができません。今回も浜松合同のCAD/CAMを検討し、採用に踏み切りますが、低コストでいかに設備を充実していくかが我々の生き残るカギとなってくると思います」
また、光ケーブルによって工作機械と結ばれるネットワークは、データターミナルから4台の工作機械を制御している。1台のPCでの制御は難しいのではないか?とお尋ねしたところ、問題はないとの返答であった。
CADデータの互換性について新井氏は、「2次元CADの互換性はほとんど問題がありません。3次元はCADによっていろいろ問題がでます。当社ではCATIA、@CAD、CAMTOOL、UGRAGH、CAMANDからIGES、そして当社のCADDSへの変換の実績があります。しかし、メーカーの設計にしても、担当者にしてもデータを変換して出してくれるケースはほとんどありません。もっとデータ変換についての認識が高まれば、出してくれるのでしょうが…」と語っている。
筆者がいつも唱えているデータ変換については、下請け製造業よりもメーカーが真剣に取り組み、CADの互換性を高めて、より製作のしやすい環境を構築するのが急務であろう。
同社のシステム構成を図1に示す。

ネットワークの構築、インターネット利用

中野金型彫工舎の中野清社長は現在、東京工業彫刻組合の理事長として活躍している。そこでは理事長が自ら先陣を切り、組合ネットワーク構築のための労働力確保法による助成金、中小企業業種別活性化対策助成金などを利用し、組合のホームページを製作しているとのことである。
これについて中野常務は、「工業彫刻というのは細分化された製造業の中でも、手作づくりかつ伝統工芸に近いものです。一般の人にはなかなか理解してもらえないですし、また我々も説明(営業)が苦手な部分を持っています。
インターネットのホームページはその点、非常に安価にできるパンフレットだと私は考えてます。ネットワークを推進する委員会ではメールによるミーティング、一般の人からの質問も受け付ける掲示板などを考えてます」
さらにインターネットの可能性について中野常務は、こう語る。
「インターネットは製造にとって非常に革新的なツールです。まず当社のインターネットの利用方法としては、今まで紙やFD(フロッピーディスク)等で行っていた図面やNCデータの交換を、インターネットのメールを使って行いはじめました。これによって打合わせや配達の時間を大幅に短縮できます。今後のネットワーク利用の展開としては、当社の協力会社、メーカー、当社工場をネットワークで結び、より早い納期対応に備えていくつもりです」
手仕上げ加工による伝統工芸技術とNC工作機械、CAD/CAMに代表されるテクノロジーを見事に融和させた中野金型彫工舎の技術力は、今後も業界のリーダーシップを発揮することは間違いないだろう。

なお、中野常務のE-Mailアドレスは、nakano-kc@md.neweb.ne.jp

表1 会社概要
有限会社 中野金型彫工舎
代表者取締役社長 中野 清
所在地東京都板橋区高島平9-44-6
TEL 03-3935-2491
資本金700万円
事業内容射出成型用金型、ダイカスト金型、工芸・工業彫刻
主な沿革慶応年間神田紺屋町で創業
明治42年伊勢神宮の御太刀の飾金具を彫刻及び制作。
大正から昭和にかけ、秩父宮家、三笠宮家、高松宮家などの各宮家の御紋章を謹製したのをはじめ、東郷、山本、寺内、古賀に至る歴代の元帥刀の飾金具を彫刻。
昭和39年法人組織化
昭和50年現在地に本社工場を新築移転、放電加工機導入
昭和58年マシニングセンター導入
昭和61年2次元CAD導入
平成元年3次元自動プロ・DNC装置導入

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