( 初出:日刊工業新聞社「プレス技術」第37巻 第8号(1999年8月号))
執筆者 内原康雄
デジタルファクトリーのネタになる工場を探すのは、毎回の楽しみであり、苦労であるが、 今回の菱輝金型はホームページのネットサーフィンをしていたところ、3DCAD/CAMを駆使して、プレス金型製造に取り組んでいる工場を発見し、愛知県一宮市に足を運んだ。
菱輝金型は菱輝グループの中核を成すプレス金型を製造している工場である。
菱輝グループは原鉄工所(大型機械加工)、アイコースタンピングセンター(板金部門)、菱輝技術センター(放電加工、熱処理部門)、そして菱輝金型工業(プレス金型、放電加工)の4社から成っている。
今回は金型工場の菱輝金型工業のレポートである。
株式会社 菱輝金型 | ||
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代表者 | 代表取締役社長 原 輝道 | |
所在地 | 愛知県一宮市多加木2-8-21 TEL 0586-71-6792 |
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営業品目 | プレス金型設計製作、大型NC機械加工、ワイヤカット放電加工、マシニング加工 | |
設備概要 | (大型機械)高速加工機/五面加工機/高速五面形状加工機/NC型倣いフライス盤/MCセンター/高速加工MCセンター/五軸高速加工MCセンター/五軸大型加工機、(小型機械)フライス盤/ラジアルボール盤/横中ぐり盤平面研削盤/旋盤/切削盤/成形研削盤/油圧式コーナーシャー/油圧式鋸盤 (プレス)油圧プレス(800t,500t) (ワイヤーカット)放電加工機 (CAD/CAM)統合CAD/CAMシステム/金型加工凹凸反転用CAM/自動パス演算CAM/2Dデータ作成CAM/NCデータ編集・描画システム /DNC/加工機対応NCデータ編集システム/ワイヤ放電加工用CAM、(測定機)3次元測定機デジタイザー/3次元測定機/投影機 (その他)クレーン設備(3t,7.5t,10t) | |
設備概要 | 大型機械 | 高速加工機/五面加工機/高速五面形状加工機/NC型倣いフライス盤/MCセンター/高速加工MCセンター/五軸高速加工MCセンター/五軸大型加工機 |
小型機械 | フライス盤/ラジアルボール盤/横中ぐり盤平面研削盤/旋盤/切削盤/成形研削盤/油圧式コーナーシャー/油圧式鋸盤 | |
プレス | 油圧プレス(800t,500t) | |
ワイヤーカット | 放電加工機 | |
CAD/CAM | 統合CAD/CAMシステム/金型加工凹凸反転用CAM/自動パス演算CAM/2Dデータ作成CAM/NCデータ編集・描画システム/DNC/加工機対応NCデータ編集システム/ワイヤ放電加工用CAM、(測定機)3次元測定機デジタイザー/3次元測定機/投影機 | |
その他 | クレーン設備(3t,7.5t,10t) |
菱輝金型工業は大手自動車メーカー系列の金型工場として多数のプレス工場に金型を納入している。その製品群は自動車関連が90%を占めるが、インナー部品、エンジンカバー部品、サスペンション部品等が主力となっている。
菱輝金型工業では部品加工のアセンブリーを行い、金型として納入、あるいは部品のスタンピングまでを行っている。菱輝グループではもっとも自動車系列に近い工場である。
前文のとおり、菱輝グループは各工場を分社させ、独立採算制を取っている。これはそれぞれが専門分野での特徴を出すためである。菱輝グループの特徴について原康裕専務は次のように語る。
「現在、当社では、4mx11mの5軸マシニングセンターを導入し、より複雑な形状のNC加工に挑戦しています。菱輝技術センターでは熱処理のプロフェッショナル、原鉄工では部品加工、アイコースタンピングセンターでは、レーザー加工機やタレットパンチャー等の専門分野にそれぞれ特化した形で常に最先端の技術を目指しています」
また、原専務は「金型製作納期は年々短くなっています。我々はそれに対応するために工作機械のNC化を図り、CAD/CAMの導入をしてきました。さらにネットワークやインターネットのメールを使っての製作を行なっていくことになるでしょう」と語る。
また「当社が東南アジアや中国に対してアッセンブリーを含めて優位性を保つには、複合加工や特殊加工を含めた組立技術の自動化しかありません。そういった意味では日本が製造で生き残っていくために必要なのは、金型製作を含めた製品製造技術です」
金型設計には日本ユニシス「CADCEUS」7台を中心に構築されている。
システム構成は別表の通りである。
データデザイン「WorkNC」、アルゴテクノス「CLICS」、コンピュティップス「WSSCONV-NCANA」の処理の流れはそれぞれの CAD/CAMあるいはCAMシステムの役割構成に応じて用意され、自動車メーカー、プレスメーカー、金型メーカー、部品メーカーからのデータに対応出来るようになっている。
データ入力はDXF、IGES等に対応しており、電子メール、FTP( File Transfer Protcol )による受け入れも用意している。
さらに工作機械のほとんどがDNCに対応している。
ワイヤーカット放電加工機の23台に対し、5名のスタッフ、マシニングセンター24台に対し、18名のスタッフでの対応を行っており、CAMデータ出力することでの省力化に成功している。
日本ユニシス「CADCEUS」の選定については原専務は
1.開発がしっかりしているメーカーであること
2.系列の自動車会社のデータ受け入れが可能なこと
3.面の作り方がシビアだった
と3点から導入を決めたという。
また今後のCADCEUSに対する要望としては、「プレス金型用のアプリケーションの開発、SOLID設計化を希望したいという。
その他のソフトについて原専務は「それぞれに長所、短所があり、一概に評価は出来ません。しかし、我々金型メーカーは現在、幾種類ものソフトの特徴を生かして利用することを考えなければなりません。そのためには今後のソフトメーカーには細かい要望に対する反映を受け入れてもらいたい」と語る。
確かに、現在のCAD/CAMユーザーは数種類のCAD/CAMを利用することも稀でなくなってきた。菱輝金型工業のように数種類のCAD/CAMを工作機械に応じて利用することは当たり前になってくると思われる。
菱輝金型工業ではインターネットメールへの全社的対応を行っている。
原専務を始め、金型設計部員を含め、電子ミーティングが行われている。電子ミーティングの特徴を原専務は次のように語る。
「電子ミーティングの特徴は他部署の人間を含めた公開討論ができます。たとえば、営業が取ってきた仕事の納期や品質について技術ともめる場合は、他部署の人間の意見も参考にしながら議論ができるわけです。これまでだと技術陣は営業の取ってきたものについて、「はいはい」と言ってきました。ところが、メールだと何が核心かがわかるわけです。そしてお互いに頭を冷やしながらうまく、仕事がまとまる。当社では今、そんな使い方がようやく定着してきました」
電子メールを全社的に活用しているプレスメーカーは、第9回の関製作所でもあったが、プレス関係のメーカーでも電子メールの事例が着実に増えている。
このネットワークは社内のスタッフが全て構築している。これについて原専務は「これは教育の一環です。メールとかインターネットとか、よその金型屋ではなかなか取り入れなくとも弊社では先陣を切って導入していこう、という気持ちが若いスタッフを引っぱていくモチベーションになるのです」と語る。
CAD/CAM/LAN/Internetと情報化には常に先進的である菱輝金型工業の今後は熟練工の腕をいかに次世代に伝えていくか、だという。菱輝金型工業の今後の活躍を期待したい。