( 初出:日刊工業新聞社「プレス技術」第37巻 第1号(1999年1月号))
執筆者 内原康雄
今回の「デジタルファクトリー最前線」は、群馬県吾妻町で金型センターを設立し、プレス金型を製作する関製作所を紹介する。
関製作所は東京の八王子に本社を置き、群馬県吾妻町、山梨県甲西町、岐阜県多治見町、マレーシア、シンガポールに工場を展開している。今回は同社の金型工場である群馬金型センターのレポートである。
株式会社 関製作所 | ||
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代表者 | 代表取締役 関 重和 | |
所在地 | 本社 〒192-0046東京都八王子市明神町2-9-22 TEL(0426)44-3991 | |
資本金 | 8,000万円 | |
従業員数 | 300名 | |
営業品目 | 電気機器用部品の製造組み立て、プレス、成形用金型の設計・製造、治具、測定機器の開発・製造 | |
沿革 | 昭和23年4月 | 東京都港区白金にて個人企業として関製作所を設立 |
昭和29年2月 | 法人組織に改め、払込資本金30万円にて株式会社関製作所発足 | |
昭和36年8月 | 現本社所在地に発展的移転 | |
昭和53年1月 | 群馬工場を開設し、金型製造、プレス加工、および組立部門の充実を図る | |
昭和56年8月 | 多治見工場を開設し、組立専門工場とし、操業開始 | |
昭和57年6月 | 甲府工場を開設し、操業開始。プレス加工部門の工場とする。 | |
昭和63年3月 | シンガポール工場開設、精密プレス部品製造を開始 | |
平成元年4月 | 甲府工場に成形機を導入、アウトサート成形加工を開始 | |
平成2年6月 | 甲府工場に自社開発による自動組立ラインを設置、さらにアウトサート成形の自動化設備導入により、成形部門を充実 | |
平成7年4月 | マレーシア工場開設、カーオーディオ機器組立を開始 | |
平成7年7月 | ISO9002認証取得 |
関製作所は大手弱電メーカーの協力工場として金属プレス加工、金属プレス金型製作をはじめ、成形加工、アセンブリーまでをこなしており、その製品群は多岐に渡っている。
現在、関製作所では複数の部品を順送金型内でアセンブリーする複合加工、せん断面の面粗度アップを狙った光沢仕上加工、シャフト等の端面仕上げ加工、バリレス加工等、特殊加工に力をいれている。
そこではメーカーに対してのVA提案が重要である。メーカーがVA化に積極的でないとせっかくの原価低減の提案も生きてこない。これらVA提案の柱を作り、金型センターを統括するのは伊藤國吉・取締役加工技術部長である。
金型センターは平均年齢30歳の40数名からなり、組織的には加工技術部のもとに技術課、製造課と部課制をとっている。(図1)
最大の金型サイズは2000x800.300トン級金型の生産台数は月12型、300トン級金型の納期は金型製作図受領後、実働約1ヶ月でこなすという。
金型納期の変遷について、伊藤部長は「金型製作納期は年々短くなっています。我々はそれに対応するために工作機械のNC化を図り、CAD/CAMを導入してきました。今後はネットワークやインターネットのメールを使っての製作を行なっていくことになるでしょう」と語る。
圧巻なのは8名の設計者からなる順送金型製作スタイルである。300トンクラスの順送型の製作について伊藤部長は「300トンクラスの金型は設計に2週間かかります。2週間で設計した金型を残り2週間で上げるためには金型の分割化しかありません。当社ではステージごとに金型を分割して一気に金型を仕上ます。最短では1ヶ月を割ることもありました」と語る。
さらに「当社が東南アジアや中国に対してアセンブリーを含めて優位性を保つには、複合加工や特殊加工を含めた組立技術の自動化しかありません。そういった意味で日本が製造で生き残っていくために必要なのは、金型製作を含めた製品製造技術です」と伊藤部長は強調する。
なお、関製作所の製造技術については98年12月号の「プレス技術」誌にも寄稿されているとおりである。
金型設計にはSUMシステムのCAD/CAMを中心に構築されている。これについて伊藤部長は「当社の設計には”サムシステム”が適合しているようです。今は古いシステムのEシリーズと新しいパートナーⅡを併用しています。今年度か次年度に新しいシステムに切り替え、ネットワーク環境に対応する予定です。また作図用にAuto-CADおよびAuto-CAD/LT、コンピューターエンジニアリングの”エクセス”も一台稼働しています。
これらのシステムの構成については「システムはUNIX、DOS、Windowsを併用しています。それぞれに長所、短所があり、いっせいにWindows版には切り替えられない。またWindows95に替えたいとしても、バージョンアップに費用が掛かるのでなかなか替えることができない。ソフトメーカーにはOSの変更とバージョンアップの関係を見直してもらわないと、バージョンアップのたびに他のCAD/CAMメーカーを合い見積りせざるえない」と話す。
たしかにバージョンアップにかかるコストが100万円を超えると使用メーカーと他メーカーの比較をせざるをえないであろう。
また、CAD/CAMシステム構成について伊藤部長は「設計と現場が離れているのでネットワークはまだ組んでいません。データはすべてフロッピーディスクで交換しています」と語る。
さらに設計業務については、「金型設計は8名の人員がいます。そのうち全員がそれぞれのCAD/CAMを持てればいいのですが、まだそこには至っていません」と語る。
一方、CADデータの互換性については「当社での3つのCAD、あるいはお客さんからの図面で問題になるのは文字化けを中心とした変換ミスです。当社ではCADを得意先から受け入れることをやっていますが、その辺をもっとCADソフトメーカーは考えて欲しい」と語っている。
今後の課題はCAD図面の共有化とネットワークということになろう。
関製作所では全体の方針としてインターネットメールへの全社的対応を行っている。具体的には社長以下、部長、課長クラスと営業は必ずメールを保有しおり、電子ミーティングが行われている。
電子ミーティングの特徴を伊藤部長は次のように語る。
「電子ミーティングの特徴は他部署の人間を含めた公開討論ができます。たとえば、営業が取ってきた仕事の納期や品質について技術ともめる場合は、他部署の人間の意見も参考にしながら議論ができるわけです。これまでだと技術陣は営業の取ってきたものについて、「ハイハイ」と言ってきたわけです。ところが、メールだと何が核心かがわかるわけです。そしてお互いに頭を冷やしながらうまく仕事がまとまる。当社では今、そんな使い方がようやく定着してきました」
電子メールを全社的に活用しているプレスメーカーを見るのは、筆者もはじめての経験である。とくに大手アセンブリーメーカーでは営業部隊と技術陣の対立はよくある構図だが、そこに電子メールを活用しているのはとてもユニークであろう。
伊藤部長はネットワークの可能性について次のように語る。
「インターネットは製造にとって非常に革新的なツールです。まず当社のインターネットの利用方法としては、今まで紙やFD(フロッピーディスク)等で行っていた図面やNCデータの交換をインターネットのメールを使って行いはじめました。これによって打合わせや配達の時間を大幅に短縮できます。
たとえば、本社に依頼された図面を群馬工場に配信します。その回答もCADデータ同士で行うため、寸法の見間違えがありません。そして必要とあればすぐにでも試作やワイヤーカットの加工データに展開できます。将来的には生産管理、工程管理等もリアルタイムで集計し、今日の生産高を本社で集計できます。
また、設計等に必要なカタログや仕様等をメーカーのホームページから引き出すこともできます。今後のネットワーク利用の展開としては当社の協力会社さんや当社の各工場をネットワークで結び、より早い納期対応に備えていくつもりです」
社内で構築した金型製造技術をより早くネットワーク化に載せようというのも常にコンピューターを利用技術として考える伊藤部長の視点があるからであろう。
なお、株式会社関製作所のメールアドレスは次のとおり。
メールアドレス:sik@ka2.so-net.ne.jp