( 初出:日刊工業新聞社「プレス技術」 第38巻 第10号 (2000年10月号) )
執筆者 内原康雄
デジタルファクトリーを掲げている工場のデジタル化は、インターネットの出現により加速的に進化している。川口板金はインターネットによる新規客先が一年で急増しているプレス板金メーカーである。そこで今回はインターネット受注にスポットを当てて、インターネットを利用して受注を得る方法論を探っていく。
あらかじめお断りしておくが、筆者自身がエヌシーネットワークという中小製造業のための情報ネットワークを運営しているため、エヌシーネットワークの利用法も含めた解説になる。しかし、今回、川口板金にお邪魔して、インターネットの利用が製造業を大きく変える可能性があることを改めて実感した。エヌシーネットワークはもはや、電話やFAX、イエローページなどの機能を持ったインフラになっている、と断言してもよいだろう。そういったことで、エヌシーネットワークの利用法も含めて、川口板金がエヌシーネットワークをどう活用して、実際の受注を得たかに焦点を当てる。
川口板金の歴史を辿ると、工場用大型暖房機の製造からスタートし、現在では製パン型のシェアにおいて圧倒的な占有率を誇るニッチなメーカーでもある。現在では自動車業界、板金業界、電機業界、燃焼器業界にまで手を広げ、各方面からの受注を獲得している年商50億規模のメーカーである。同社の特徴は設備が現わしている。その設備とはマシニングセンター、ワイヤーカットなど金型設備などをはじめ、タレットパンチャーレーザー複合機、板金設備など。1,000トンプレスを筆頭とするプレス設備、ロボット溶接からハンド溶接に至る組立設備、試作から金型、量産に結び付ける設備が一貫して揃っている。
川口板金の営業窓口を担当するのは久保木秀樹氏である。
久保木氏は「なぜ、弊社がこれほどインターネットで受注しているかは謎です」
と語る。確かに、筆者も工場を拝見させていただいて感じたことは、金型部門、板金部門、量産プレス部門、組立部門、どれをとっても一般的な設備であり、特に特徴的な技術は見当たらない気がしたのである。
どこが特徴なんでしょうね? という質問に対し、「さあ、自分でもよくわからないし、それがわかれば、営業方針を切り替えるんですがね」という答えが返されてきた。
以上のようなことから、久保木氏との会話の中心はエヌシーネットワークのコンテンツの話に移り、その会話の中に同社の競争力が見えてくることになる。
区分 | 設備名称 | 能力・仕様 | 台数 | 余力(1直) |
---|---|---|---|---|
プレス | ブランキングプレス | 1000t-6.0t×1219 (DH 1100×1600×3000) | 1 | 100% |
ブランキングプレス | 500t-3.2t×1219 (DH 1100×1600×2150) | 1 | 30 | |
ブランキングプレス | 300t-3.2t×300 (DH 650×1300×2150) | 1 | 30 | |
単発プレス | 500t (DH 1100×1350×3000) | 1 | 40 | |
単発プレス | 500t (DH 1100×1350×2500) | 2 | 40 | |
単発プレス | 350t (DH 650×1350×2100) | 1 | 50 | |
単発プレス | 300t (DH 650×1350×2100) | 10 | 40 | |
単発プレス | 200t | 8 | 80 | |
単発プレス | 100~150t | 9 | 80 | |
単発プレス | 30~80t | 41 | 90 | |
対向液圧プレス | 350t | 1 | 80 | |
ベンダー | 200t×3000 | 1 | 30 | |
2次元レーザープレス | 9.0t×5'×10' | 4 | 70 | |
2次元レーザープレス | 9.0t×4'×8' | 1 | 40 | |
溶接 | 溶接ロボット | 炭酸ガス(1.2φ) | 35 | 50 |
スポット溶接機 | 33 | 40 | ||
工作機械 | 門型マシニングセンタ | 1500×3100×H 1500 | 1 | 40 |
門型マシニングセンタ | 1200×2100×H 1350 | 3 | 50 | |
立型マシニングセンタ | 2 | 70 | ||
ワイヤーカット | 750×1000×260 | 1 | 30 | |
その他 | 3次元レーザー | 3.2t×1000×2000 | 1 | 80 |
シャーリング | 10.0t×2500 | 1 | 60 |
エヌシーネットワークの利用について問い質したところ、久保木氏からは「そうですね。受発注掲示板はともかく、毎日見てます。その中にいつ受注に結びつくことがあるかもしれないですからね」 具体的にエヌシーネットワークを通じての引合いについて尋ねてみた。
上記のようなさまざまな事例が起きている。細かい単発の部品の事例を含めると40ほどの事例があるそうだ。さらに、発注サイドにも焦点を移すと、
「これまで7件、新規にお願いしてます。特に塗装関連、小物板金ですね。EMIDASで見つけることが多いです。受発注掲示板はメール返信が多すぎるのでよほどでないと使いません」と久保木氏は説明する。
エヌシーネットワークの利用法について尋ねると、「今までなんの連絡もなかったのは、中古工作機械掲示板で8mクラスのベンダーを買います、と出した時くらいですね。求人にも利用しているし、ERPの掲示板も欠かさず見るように努力してます。しかし、数が多すぎて、ついていくのに精一杯です。内原さん、見やすいようになんとかしてください!」
内原「・・・・・・」
以上、川口板金でのインターネットでの受注事例を解説してきた。久保木氏と最後に話したのが、川口板金の真の競争力はコストにあるのではないか? ということである。久保木さんは苦笑いしていたが、事務所も質素で、間接人員を極力置かない、置いても何かしら直接的な業務を持たせる経営方針を貫いているのだと言う。筆者は、ここに同社の真の競争力の神髄を見たような気がした。
インターネットというオープンな環境の中で生き抜いて行くメーカーは、すなわち、納期、品質、価格において満足を納めたメーカーである。