第19回 川口板金 株式会社

( 初出:日刊工業新聞社「プレス技術」 第38巻 第10号 (2000年10月号) )

執筆者 内原康雄

デジタルファクトリーを掲げている工場のデジタル化は、インターネットの出現により加速的に進化している。川口板金はインターネットによる新規客先が一年で急増しているプレス板金メーカーである。そこで今回はインターネット受注にスポットを当てて、インターネットを利用して受注を得る方法論を探っていく。
あらかじめお断りしておくが、筆者自身がエヌシーネットワークという中小製造業のための情報ネットワークを運営しているため、エヌシーネットワークの利用法も含めた解説になる。しかし、今回、川口板金にお邪魔して、インターネットの利用が製造業を大きく変える可能性があることを改めて実感した。エヌシーネットワークはもはや、電話やFAX、イエローページなどの機能を持ったインフラになっている、と断言してもよいだろう。そういったことで、エヌシーネットワークの利用法も含めて、川口板金がエヌシーネットワークをどう活用して、実際の受注を得たかに焦点を当てる。

川口板金の製造技術

久保木秀樹課長

川口板金の歴史を辿ると、工場用大型暖房機の製造からスタートし、現在では製パン型のシェアにおいて圧倒的な占有率を誇るニッチなメーカーでもある。現在では自動車業界、板金業界、電機業界、燃焼器業界にまで手を広げ、各方面からの受注を獲得している年商50億規模のメーカーである。同社の特徴は設備が現わしている。その設備とはマシニングセンター、ワイヤーカットなど金型設備などをはじめ、タレットパンチャーレーザー複合機、板金設備など。1,000トンプレスを筆頭とするプレス設備、ロボット溶接からハンド溶接に至る組立設備、試作から金型、量産に結び付ける設備が一貫して揃っている。
川口板金の営業窓口を担当するのは久保木秀樹氏である。
久保木氏は「なぜ、弊社がこれほどインターネットで受注しているかは謎です」
と語る。確かに、筆者も工場を拝見させていただいて感じたことは、金型部門、板金部門、量産プレス部門、組立部門、どれをとっても一般的な設備であり、特に特徴的な技術は見当たらない気がしたのである。
どこが特徴なんでしょうね? という質問に対し、「さあ、自分でもよくわからないし、それがわかれば、営業方針を切り替えるんですがね」という答えが返されてきた。
以上のようなことから、久保木氏との会話の中心はエヌシーネットワークのコンテンツの話に移り、その会話の中に同社の競争力が見えてくることになる。

会社概要
区分設備名称能力・仕様台数余力(1直)
プレスブランキングプレス1000t-6.0t×1219
(DH 1100×1600×3000)
1100%
ブランキングプレス500t-3.2t×1219
(DH 1100×1600×2150)
130
ブランキングプレス300t-3.2t×300
(DH 650×1300×2150)
130
単発プレス500t
(DH 1100×1350×3000)
140
単発プレス500t
(DH 1100×1350×2500)
240
単発プレス350t
(DH 650×1350×2100)
150
単発プレス300t
(DH 650×1350×2100)
1040
単発プレス200t880
単発プレス100~150t980
単発プレス30~80t4190
対向液圧プレス350t180
ベンダー200t×3000130
2次元レーザープレス9.0t×5'×10'470
2次元レーザープレス9.0t×4'×8'140
溶接溶接ロボット炭酸ガス(1.2φ)3550
スポット溶接機 3340
工作機械門型マシニングセンタ1500×3100×H 1500140
門型マシニングセンタ1200×2100×H 1350350
立型マシニングセンタ 270
ワイヤーカット750×1000×260130
その他3次元レーザー3.2t×1000×2000180
シャーリング10.0t×2500160

エヌシーネットワークの利用について

エヌシーネットワークの利用について問い質したところ、久保木氏からは「そうですね。受発注掲示板はともかく、毎日見てます。その中にいつ受注に結びつくことがあるかもしれないですからね」 具体的にエヌシーネットワークを通じての引合いについて尋ねてみた。

(1)利用コンテンツ:受発注掲示板「発注したいを見て」久保木氏がアプローチ。
  • 業種:同業のプレスメーカーから。
  • 製品:アルミプレス製品。
  • 受注決定のポイント:200トンプレスラインを所有していたこと。
  • 取引金額:月600万円(継続)5種類程度。
  • 今後の可能性:最終的に15種類程度になる。
(2)利用コンテンツ:EMIDASを客先が検索して久保木氏にメールでアプローチ。
  • 業種:同業の乗用車関連のセットメーカー。
  • 製品:自動車関係の乗用車関連のプレス部品。(これまで同社ではトラック・バスが中心であった)
  • 受注の決定ポイント:コストが合った。
  • 取引金額:月産2,000個、月120万円程度(スポット・継続)。
  • 今後の可能性:コストが合えば、今後も新規発注の可能性あり。
(3)利用コンテンツ:EMIDASを客先が検索して久保木氏にメールでアプローチ。
  • 業種:同業の乗用車関連のセットメーカー。
  • 製品:電話ボックス関連のプレス部品。
  • 受注決定のポイント:対向液圧プレスを所有していたこと。
  • 取引金額:月産2,000~20,000個、月300万円程度(継続)。
(4)利用コンテンツ:EMIDASを客先が検索して久保木氏にメールでアプローチ。
  • 業種:自動車部品メーカー。
  • 製品:組立を含むプレス部品。
  • 受注決定のポイント:客先の生産拠点とマッチした。
  • 取引金額:60種類程度、400~500万円。
(5)利用コンテンツ:受発注掲示板「発注したいを見て」久保木氏がアプローチ。
  • 業種:生活用品のベンチャー企業。
  • 製品:金属製品、試作(1,000個)から始めて、量産に移行(10,000個)。コンピューター付属部品。
  • 受注決定のポイント:試作から量産に対応できたこと。
  • 取引金額:600万円。

上記のようなさまざまな事例が起きている。細かい単発の部品の事例を含めると40ほどの事例があるそうだ。さらに、発注サイドにも焦点を移すと、
「これまで7件、新規にお願いしてます。特に塗装関連、小物板金ですね。EMIDASで見つけることが多いです。受発注掲示板はメール返信が多すぎるのでよほどでないと使いません」と久保木氏は説明する。
エヌシーネットワークの利用法について尋ねると、「今までなんの連絡もなかったのは、中古工作機械掲示板で8mクラスのベンダーを買います、と出した時くらいですね。求人にも利用しているし、ERPの掲示板も欠かさず見るように努力してます。しかし、数が多すぎて、ついていくのに精一杯です。内原さん、見やすいようになんとかしてください!」
内原「・・・・・・」

マシニングセンター

500トンプレス

まとめ

以上、川口板金でのインターネットでの受注事例を解説してきた。久保木氏と最後に話したのが、川口板金の真の競争力はコストにあるのではないか? ということである。久保木さんは苦笑いしていたが、事務所も質素で、間接人員を極力置かない、置いても何かしら直接的な業務を持たせる経営方針を貫いているのだと言う。筆者は、ここに同社の真の競争力の神髄を見たような気がした。
インターネットというオープンな環境の中で生き抜いて行くメーカーは、すなわち、納期、品質、価格において満足を納めたメーカーである。

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