平板を抜いたとき、その端面の切口は、下図のように4層構造となり平滑とはならない。
プレス抜き加工においてダレ、バリの発生原理は、下図による。
パンチ (上型) が下降し材料に接触し、さらに下降すると材料のパンチ及びダイの刃面側にダレが発生する。
さらに下降するとパンチ及びダイの刃先より材料にクラックが発生する。
このときパンチ、ダイ刃側面がせん断面となりクラックが破断面となる。
パンチ側クラックとダイ側クラックがつながり抜きが完了する。
従ってパンチが材料の2/3程度入った段階で抜きが完了する。
パンチ側クラックと ダイ側クラックがつながる
ため パンチダイに適正な隙間が必要になる。
この隙間をクリアランスと呼ぶ。
このクリアランスによりバリが発生する。
プレス抜き加工においてクリアランスは重要で少なくても多くても不具合が発生する。
適正なクリアランスはせん断面が板厚の1/3~1/2の割合で全体に平均している。
せん断面の量でクリアラアンスの状態がある程度判断できる。せん断面の量が部分的に異なる場合は クリアランスが一定していないことが多い。
クリアランスが少ないときパンチとダイ刃先より発生する クラックが一致せず 2次せん断面が発生っする。
プレス機精度により金型が破損し易い。
(カジリ)
パンチとダイ刃先のチッピングが起き易い。
抜き圧力は多くなるが抜きゾリは少なくなる。
ヒゲ状のバリが発生する。
クリアランスが大きいとダレとバリが大きくなり製品精度が不安定となる。
抜き圧力は少ないが抜きゾリは大きくなる。
パンチとダイの刃側面が摩耗すると この状態になることが多い。
クリアランス | バリ | ダレ | 抜き圧力 | 抜きゾリ |
---|---|---|---|---|
過小 | ヒゲ状 | 小 | 大 | 小 |
過大 | 大 | 大 | 小 | 大 |
クリアランスは被加工材(製品材料)の材質及び板厚によりその数値は異なる。
金型は加工を繰り返すことにより摩耗を考慮し製作時には下記表の少ない数値で製作することが好ましい。
実用値 = % X 被加工材板厚 = 片側クリアランス
被加工材質 | % |
---|---|
鉄系 | 5~10 |
ステンレス系 | 7~11 |
銅 | 3~9 |
黄銅 | 4~9 |
りん青銅 | 5~10 |
アルミ系 | 4~8 |
-各社経験値により標準可している-
【例題】材料SPCで板厚1.2 丸ワッシャ-形状で外形 20 内径 5 のパンチとダイの寸法は?
上記表よりクリアランスは 5 % t とする。
外形抜きの
パンチ= 20 - (1.2 X 0.05) X 2 = 19.88
ダイ = 20(製品寸法通り)
穴抜きの
パンチ= 5(製品寸法通り)
ダイ = 5 +(1.2 X 0.05 ) X 2 = 5.12
通常抜きによりバリは必ず発生し、そのバリの高さは板厚に関係する。
バリ高さ = 板厚の 5~10 %
クリアランスの設定、金型構造により異なる。
パンチ、ダイの刃先が摩耗するとバリは高くなる。
バリ
バリは必ず発生する。
理屈ではそうなるが、それはプレス屋の理屈。
安全の問題や機能としての問題からバリは、製品設計者としてはやはり困る。
バリは、我々プレス屋としても出したくて出しているわけではないながら困った存在。
バリレスと称して、バリを板の真ん中に集めることが出来る。(後述)
色々制約があり、その説明を某設計者にしていたら
「両面バリって出来ます?」
「なんに使うのですか?」と私
「聞いてみただけ・・・・」
抜き作業における必要圧力は下記計算式により求めることが出来る。
但し、得られた結果は概算で金型形式、金型摩耗状況、クリアランス等により若干異なる。
P = L X t X S
P:抜き圧力(Kg)
L:抜く形状の全周長(mm)
t:被加工材の板厚(mm)
S:被加工材のせん断抵抗値(Kg /mm2)
-通常はTonで表現する。-
被加工材 | せん断抵抗値(Kg /mm2) |
---|---|
鉄系 | 35 |
SUS430 | 45 |
SUS304 | 55 |
アルミ系 | 20 |
黄銅板 | 30 |
ケイ素鋼板 | 55 |
銅 | 25 |
【例題】材料SPCで板厚1.2 丸ワッシャ-形状で外形50 内径30の総抜型の場合の抜き圧力は?
外形部分 1.2 X (50 X π) X 35 = 6.594Kg
内径部分 1.2 X (30 X π) X 35 = 3.956Kg
総抜型なので 6.594 + 3.956 = 10.550Kg → 約11Ton
プレス業での労働災害は20年程前までは頻繁にあり、指切断・手首の潰れ・等、悲惨な事故は1社当たり年に1~2件は発生していた。
プレス屋として指が10本まともでは一人前とは云えない。・・・という時代。
労働基準監督署が中心となり安全対策が進み、15年程前からは殆ど事故は発生しなくなった。
(1)足踏み起動から両手押しボタン起動(下死点前に手をボタンから離すと瞬間停止)
(2)多光線式安全器の浸透。
(3)安全教育、講習の徹底。
(4)順送等自動運転化。
従って、プレス加工から災害が消えたと思っていたら海外(東南アジア地区)のローカルプレス屋では依然として安全対策のない機械で作業をさせており、やはり災害は多いとのこと。
プレス技術の海外移転が進むなか安全対策技術も同時に移転して欲しいもの。