設計会社のセールスプロモーション

A) 設計会社 ( BB社 ) のセールスプロモーション

今回からは、もう少し実例に基づいた演習を行っていくことにします。
最初は、設計会社のセールスプロモーション についてです。

まず、事例で採り上げる会社について、以下のような状況の会社であるとしてみます。

社  名) 株式会社BBエンジニアリング
創  業) 昭和63年3月28日
所 在 地) 大阪府東大阪市
業  種) 機械設計業
資 本 金) 1,000万円
売 上 高) 7,200万円 <平成13年度>
社 員 数) 6名
設  備) CAD ソフト/MICRO CADAM
              /AUTO CAD
          ハード/WIN系PC 計8台
          レーザプリンタ
設計実績)油圧機器・装置
       立体駐車設備

この会社の「商品」は何ですか?

まず、この会社の現状の 商品は何か を考えるところから始めます。

もちろん、上記に記されたところから、「CADの設備・ソフトおよび設計者」 を抱えているところが分かります。

また、実績として見れば、「特に油圧関係の機械設計が強み」 のようです。

おそらく、長年の間、特定の企業 ( それも大手クラス ) から油圧関連を主体とした機械設計の仕事を請け負ってきた会社 ではないかと想像できます。
大手であると思われるのは、仕事が特定業種の特定分野に絞られていることからの推測です。

そういう面では、特化した商品力をもっている と思われます。
すなわち、技術のベクトルがはっきりしているため、仕事として成立しやすい会社 ではないかと思います。

ただ、問題は仕事と得意先が特定 ( ニッチ ) であるがゆえに、横への展開が難しいということも言えます。

油圧以外の設計の仕事についてはノウハウが乏しく、油圧関係の新しい得意先へ営業するには既存の取引先との兼ね合いから難しい…と。

結果として言えることは、現在見える商品項目だけPRしていても、事業の展開は難しいということです。

すなわち、 「商品」 というものからもう少し見直していく必要がありそうです。

他にどんな情報が必要ですか?

の会社の 「商品」 というものを見直していくために、他にどんな情報が必要でしょうか?

それは例えば以下のような点です。

① 社長の自身の経歴・仕事ノウハウ・ネットワーク等をもう少し詳しく知りたい

  ・ 機械設計以外での仕事経験、ノウハウをお持ちであるのか?
  ・ 現在の取引き先周辺、あるいはそれ以外でのネットワークはあるのか?

② 会社の商品分析についてもう少し詳しく知りたい

  ・ 現状、BB社の「商品」としてPRできるものは何か?
  ・ 上記商品のうちで、顧客が評価しているものはどれか?

③ 会社の人材(ここでは社員6人とある)についてもう少し詳しく知りたい

  ・ 彼らの技術的な力量はどれぐらいか?
  ・ 設計以外のスキルとして、彼らが持っているものは何か?

こうした情報について分析し、BB社には以下のような特徴があったとします。

  • 属していたのは今の主要取引先 (油圧機器メーカー)。
    その当時は設計だけでなく、生産の現場にも携わっていた。
    部下も多く、人を育てることも仕事だった。
  • その当時の同僚や先輩、部下の中でも独立して同様の事業を営んでいる人間も少なくない。
  • 前職のサラリーマン時代は、とにかくいろんな設計を担当した。
    油圧に携わった経験は長いが、独立して油圧を特化したのは、競争優位性のある商品だから。
  • 早くからCADソフトの利用をしてきた。
    歳をとってきたが、未だにCAD系のソフトであれば難なく使える。
  • 社長の娘さんが社員としてCAD設計をしている。
    技術者あがりではないため、技術的なスキルは低いが、仕事への熱意、姿勢は高いものがある。
    社員のうちの1人の女性は、娘さんが指導してそこそこできるレベルにまでなった。
  • それ以外で思いつく限り、特に商品性のあるものは見あたらなかった。

プロモーションできる 「 商品 」 を考えてみる

ここまでの情報があって、はじめて 「 自社商品 」 としてのヒントがいくつか見えてきます。
その中で、特に大きいと思われるのは、「 主要取引先との信頼関係 」「 娘さんの存在 」 であろうと考えます。

それを具体的にお話します。

これまでBB社は、特化した技術領域での専門会社であった、「 いわゆる職人的な設計屋 」 であったわけです。

要するに、BB社の社員というものは基本的に 社長の仕事を分担して請け負う というものであり、顧客との対応など、いわゆる 営業的な要素はまったく教えられていなかった と察します。

競争優位性が保てない 「 簡易なCAD 」 などはあまり請けようとしなかったと思われます。
あるいは以前に請けたことはあったとしても、それはそれで値段の安い会社がいくらでも営業してくるために嫌気をさし、いつの間にか止めてしまったのかもしれません。

こうしたことから、BB社の商品 はいわゆる 「 社長 」 でしかなくなっていた わけです。
その場合、社長という商品はすでに既存取引先の取引商品であるため、他に売り込むことができない。

すなわち、発展的に仕事を横展開させていく術を自ら絶ってしまっているわけです。

商品 として 「 娘さん 」 の位置を注目するのは、「 社長 」 以外の商品をつくることができる切り口 であろうと思われるからです。
この 娘さんの活用 によって、これまでできなかった( 本音で言えばやりたかった ) 仕事ができると思われます。
その商品とは、例えば“ 単価が安くても横展開が簡単で、場合によっては大口の取引受注が見込める ” 「 簡易なCAD図面作成 」 などがそれに該当すると考えられます。

ここで娘さんが良いと思うのは、こうしたことを「 技術者である社長が進めるのは難しい 」  という面があるからです。
職人的な技術屋さんの悲しさであるのですが、取引先の若手技術者に頭を下げて安い仕事を請けるのは嫌だからです。どうしてもこうした若手技術者の前に出ると、「 俺が教えてやろう 」 という上司・部下の気分が抜けないのです。

ようするに、この状況では 「 娘さん 」 がプロジェクト的に発信して自社商品 を形成していかなければいけません。

それは、商品づくりだけはなく、取引先の開拓においても、自社でのCADスタッフ ( 主に女性 ) の採用・育成においても、それを活用する以外に道は無いような気がします。

この職人気質の社長がなんとか一念奮起して、娘さんと話をしてみた結果、意外にも娘さんの表情は 「 明るくなった 」 と思われます。
娘さん自身、社長の娘であることで、父を応援する立場にあっただけに本当は言うに言えない苦労があると推測できます。
職人の父の仕事のあり方は、それ自体尊敬に値することだと感じているのですが、育っていっても辞めてしまう社員たちと、人が減ることでまた自分が関わってそのフォローを行っている現状。
働いても働いても、なかなか楽にならない会社の台所事情など…
結婚ということも、今は考えられない状況のようです。

さて、いよいよ セールスプロモーションの展開 についてです。

商品

ここで見える 商品 は、「 CADによる図面作成 」 なのですが、それだけでは 優位性 が発揮できません。

「 安さ 」 も売りにしていけばいいのでしょうが、初回のSP講座でも述べたように、安いだけの商品戦略では必ず失敗する と思われます。

もう一度、この 娘さんの商品力 を再読してみると、「 人を育てた経験がある 」 という事項が目につきます。
これは一つの 重要なポイント です。

さて、それがBB社の 商品 である として…。

ターゲット

誰しも考える方向とすれば、新しい顧客先を開拓すること だと思います。
娘の賛同を受けて、やや気丈になった社長は、これまでのネットワークを頼って、元の同僚や部下たちが興している会社に話を持ち込んでみようと試みるでしょう。

…ところが残念ながら、よい返事は得られない。

どこの会社も台所事情は同じことです。
安い仕事でもあれば請けているのが実情で、BB社のような単価の高い仕事を取ってこれた会社の方が少なかったのです。

挫折した社長は、なにが 「 セールスプロモーション 」 だ! 馬鹿にしやがって!
と悔しがられるかもしれないのですが、その前にターゲットの設定が本当に出来ていたのか、 見直してみて欲しいのです。

詳しくは、本講座の ターゲット の項目を再度お読みいただくとして、ターゲットを明確化 する方法として、以下の公式に当てはめてみるというのがありました。

「 娘さんがもつ商品が欲しいのは、○○○○○○である 」
「 ○○○○○○ならば、必ず娘さんに仕事を依頼する 」

これで見ると、確かに仲間うちのCAD会社などは、安い商品を求めているかもしれません。
しかし、だからといって 必ず 娘さんに仕事を発注するほどまでの絞られたターゲット であるとは思えません。

ここで 注目すべき商品の機能 とは、 人を育てる能力 の方であると考えてみます。

多くの中小企業の方々があまり強く認識しておられなくて残念なのですが、この 「 教育 」  いうもの、実は大きな利益をもたらす儲ける仕組み(システム) なのです。

ようするに、ターゲットの明確化 の工程においては、この 人を育てる能力を 「 絶対的に求めている会社 」、それによって多大な 「 利益を招く可能性のある会社 」を探していけばよいのです。

思うに、2つの会社(利益法人)がすぐに考えつきます。

一つは、 「 学校 (あるいはPCスクール) 」 。
もう一つは、「 人材派遣、業務請負の会社 」 です。

ニーズ

「 学校 ( 専門学校あるいはPCスクール ) 」
「 人材派遣、業務請負の会社 」

この2つの法人を ターゲット として設定してみました。
( もちろん、上記の2法人だけがターゲットであると限っている訳ではありません。誤解のないよう… )

それぞれの法人において、ニーズ はどのようなものでしょうか。

「 学校 ( 専門学校あるいはPCスクール ) 」 の  ニーズ とは、収益性の高い新しい講座を求めている 、しかも 夜間や日曜祝日のみなどの限定時間において …という感じでしょうか。

専門学校やPCスクールは、昼間においては通常の学生たちが勉強しています。
夜や日祝日になると教室は空く。
すなわち、設備利用率が極端に落ちるわけです。

こうした空き教室を利用して、別の講座を仕掛けていくことは、どこの学校でも求めている要素です。

しかもこの 娘さんの強み は、通常の専門学校の先生方では教えられないだろう機械設計の技術を取り入れた講座ができる。
しかも、よくあるカリキュラムを消化型の教育ではなく、プロを育成した経験 をもっているのです。

「 人材派遣、業務請負会社 」 の ニーズ とは、現状の派遣・請負登録者を、よりお金のとれるスキルへと導いて、就業の確率アップと、時給単価のアップを狙いたい というものです。

人材派遣会社などにおいては、その登録人材の確保がもっとも頭の痛いところであり、お金がかかっているところなのです。
高い求人情報誌に出したとしても、お金がとれる高スキルの人はなかなか登録しにきません。
ならば、素養のある人を、専門的な技術教育を派遣会社のほうが提供することで、人材のレベルアップを行っていきたい という戦略は、どこの派遣会社でも考えていることです。

しかしながら実際は、考えながらも、実行に移せている会社はほんの一握り。
多くの派遣会社では、機械設計の実践的なCAD技術など、教えてくれる人など見当たらないと思っているでしょう。

期 待

ニーズ が上述のように 明確 ですから、 期待も明確 です。

BB社に 期待 してくるのは、「 実践的な設計CAD技術を、短い時間で修得できるカリキュラムの作成、および講師を派遣してくれること」 です。

当然、営業 ( キャッチ ) の前段階においては、この 期待 に応えるための 準備 を行っておく必要があります。

すなわち、「 カリキュラム案を作成すること 」 、 「 講師を選定しておくこと 」 です。

キャッチ

「 学校 (専門学校あるいはPCスクール) 」
「 人材派遣、業務請負の会社 」

この2つの法人を ターゲット に、ニーズ期待 を考え、その商品を整備するために、カリキュラムの作成と講師の選定を行ってきました。

さて、いよいよ キャッチ (営業)の段階です。

前述しました通り、上記2つの法人においての ニーズと期待は明確 であるため、中堅クラスの学校や派遣会社などでは、おそらく通り一遍の営業トークでも話は聞いてもらえるのではないかと思います。

NCネットワークの会員の企業の皆様で、設計請負等を仕事とされている方で、今回の講座内容に興味を持たれ、「ぜひ自社でも採り入れて行ってみたい」と思われる方がおられましたら幸いです。

こうして進んでみて、それでもまた必ず障害は出てくるものです。
しかしながら、進まずしては障害もなければ、変革も進展もありません。

ぜひチャレンジしてみていただきたいのです。

クローズ

商談を行ってみて、ある程度先方が乗ってきて、いよいよ相手側に 「決定してもらいたい」 と思ったら、クローズ をきちんと行いましょう。

クローズ のポイントにあるのが、「 お客様の " ニーズと期待 " を確実に " キャッチ " している 」ということです。

それも、単なる ニーズ ではなく、 真のニーズ を理解することが必要である旨を クローズ の講座で解説しました。
それをもう一度読み返してください。

そして 必ず、「 商談の中で 、お客様に決定させること 」が出来ていなければなりません。
「あとで考える」 「資料をもらって検討する」 などという結果で終わるのは、お客様に決めさせていない から、すなわちクローズに失敗している ということもお話してきました。

こうした専門学校や派遣会社へのアプローチは、実際に私たち株式会社ビジービーの営業戦略にもあるものです。
私たちの 「 キャッチ → クローズ 」 のあり方は、若干特殊なやり方を行っております。
(そこが他社では真似できないノウハウになっています)

こうしたことも、お客様の 真のニーズ の理解から生み出されたものであります。
この 真のニーズ、普通は 1回や2回の商談では見えないのが当たり前です。
恐れずにチャレンジして、その都度 徹底的に考える ようにしてください。
真のニーズ を理解する解法は、またいずれかの機会で説明することにします。

ここでは、皆様の継続的な挑戦によって「真のニーズ(お客様の本当の声)」 が見出されることを期待しております。

最後に…

今回、当初の講座スケジュール/内容を変更して、こうした具体的事例によるセールスプロモーション講座を行わせていただきました。

多くの方々からのメールによるお問い合わせの中で、自分たちの業務に近いところで、もっとわかりやすい実践方法を教えて欲しいという要望が多かったためです。

私としては、できるだけ現実味が出るように説明いたしたつもりですが、まだ不明確な点、具体的に説明を求められたい点は、遠慮なくメールにてお問い合わせください。

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