kataya

第五章:助っ人

毛利の運転する車で、彼の実家に連れていかれた。
毛利家もひどい有様だった。足の踏み場もないとは、まさにこういう状態をいうのだろう。廊下はとりあえず歩けるように一本道ができていたが、リビングは惨憺たるものだった。食器や割れた酒瓶が散乱し、ブランデーのよい香りが漂っていた。
壁の白いクロスのあちこちに亀裂が走っている。
落下物を脇に寄せてなんとか空間をつくり、そこに無理くり布団が二組敷かれていた。
「親父もおふくろも、家のことは後回しにしようって。とりあえず寝るとこだけ確保してね。メシもあの上で食ってるの」
先ほど工場で挨拶した毛利の両親は、後から帰宅するはずだ。片づけをしていたもうひとりの五十歳代の男性は工場長だった。
階段を上がって二階にある毛利の部屋も似たようなものだった。
「すごく揺れたんですか?」
亀の甲の模様のような壁のひびを眺めながら、遠慮がちに拳磨は訊いた。
毛利が頷くと、話し始めた。

午後二時四十六分、毛利は工場で強い揺れを感じた。それはどんどん激しくなっていった。
ヤバイ、と感じた瞬間には、
「逃げろー!」
という声をが上げていた。
作業中だった毛利製作所の人々は玄関から雪の舞う屋外へと避難した。
立ってはいられない状態だった。自動車、柵など、皆は手の届くところにあるなにかにつかまり、あるいは這いつくばっていた。
揺れが収まると、点呼をとった。福島は昔から地震とは縁のない土地だったが、火災などに備えて避難訓練は行っていた。
毛利製作所は社長以下、パートも含めて二十名の社員がいる。
「一人足りない!」
工場長と毛利が意を決して中へと引き返す。すると、女性社員のひとりである萌 が、機械の下にもぐり込んだまま動けないでいた。ケガはないようだが、恐ろしさのあまり立てないらしい。あたりには落下してきた天井板やガラス、倒れたラックが累積していた。
工場長とともに、瓦礫をよけ、なんとか萌を連れ出した。
外で待っていた社員らに安どの表情が広がった。

しかし、それもつかの間、暖かい工場内で薄着で作業していた人々に、次第に強くなっていく風が容赦なく雪を吹きつけた。
歯の根が合わないのは、寒さのせいばかりではなかった。繰り返し起こる余震が、目の前にある傷ついた工場を揺さぶっていた。そのたびに、場内ではなにかが落下し壊れる音が響き渡った。
助け出された萌が、べそをかいていた。
(つづく)
 

SPECIAL THANKS
株式会社ヒューテック・藤原多喜夫社長
アルファ電子株式会社・樽川久夫社長

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