kataya

第二章:切り子

あれから一ヵ月余り、拳磨は宮下に言われた例の削りに取り掛かっているが、まだ果たせないでいた。
丸棒を削って、コマかキノコのような形にしようとしている。直径二百ミリの丸棒を百ミリに削り、毎日ひたすらコマやキノコの軸の部分をつくっているわけだ。ところが、その軸の粗取り加工の時、コマの胴に近づくにしたがって、軸の根元の部分がだんだんと太くなってしまうのだ。
回転する直径二百ミリの丸棒の外周に刃物を当て、直径方向に五ミリずつ切り込み、自動送りレバーを上げて切削し、五十ミリ進んだところで自動送りのレバーを手で解除する。この操作を通称「落とし」という。それを一回ごとに繰り返して、コマの軸状の部分を成形する。
ところが、レバーを落として送りを止めるポイントが、最初は五十ミリで止められるが、一回ごとに数ミリずつ手前で止めてしまっているようで、一点に定まっていないのだ。だから直径方向に五ミリ削るにしたがって、根っこのところに斜めの層が堆積していくわけだ。
「なぜだか分かるか?」
そう宮下に訊かれた。
分かっていたら、とっくにできるようになっている。
「怖がってるんだよ、おまえ」
拳磨はカッとした。それは確かに初めこそ、工作物の回る旋盤に向かうのに多少の抵抗はあった。けれど、それにもいいかげん慣れてきている。この俺が、いつまでも怖がってるなんて……
「おまえが怖がってるのは、自分がケガすることじゃねえよ。欠損するんじゃないかって怖さだ」
拳磨はハッとした。
五ミリずつ薄く削り進んでは、五十ミリのところでレバーを落とす。けれど、それを繰り返すうち、だんだんと姿を現してくるコマの胴の部分を削り取らないようにという神経が必要以上に働き、レバーを落とすポイントが、無意識のうちに手前に手前になっていたのだ。

(つづく)

SPECIAL THANKS
株式会社ヒューテック・藤原多喜夫社長
参考文献『トコトンやさしい旋盤の本』澤武一著(日刊工業新聞社)

新規会員登録