kataya

終章:駅

「すごい! ケンちゃんて、あたしなんかのいっつもずっとずうっと上の世界にいるよね。あたしなんかがケンちゃんを友だちだなんて思っていいのかって気が引けちゃう。眩しいんだ、いつもケンちゃん見てると」
俺のどこが眩しいもんか。サヨ、俺にはおまえのほうが眩しいよ。ずっと眩しいよ。
「やっぱ、ケンちゃんは、あたしやゴロちゃんとは違うんだよね。あたしもだらしないけど、ゴロちゃんも弱くていい加減だもんね」
「なあサヨ、オリンピックでメダル取ったら、いや、メダルが取れなかったとしても――」
一緒に暮らさないか、そう言おうとした。おまえと海と俺、三人で暮らそう。拳磨がそう言おうとした時、
「でもね、だらしないあたしには、弱くていい加減なゴロちゃんがやっぱり合ってるの」
サヨはその先を拳磨に言わせなかった。
「冬になったらね、ゴロちゃんが帰って来るような気がしてるんだ」
ガタゴトと列車が近づいてくる音がした。
すると、サヨは白衣のポケットから白い手袋を取り出した。
「上りの時間だ」
ホームへと出ていく。
ひたすら真っ直ぐに続く単線軌道を二両編成のディーゼル車がのんびりとやって来た。
到着した列車から降りる客はいない。
ワンマン運行らしく運転士がホームに出てきて、白手袋のサヨと敬礼を交わした。運転士は誰もいないプラットホームを指さし、安全確認すると笛を吹く。
そんな様子を拳磨はバイクに跨って眺めていた。
サヨは動きだした列車に向けて大きく手を振った。列車が遠のいても、いつまでもいつまでも手を振り続けている。
運転士はそれに応えるようにプオーッと汽笛を高く響かせた。それが遠い山並みにこだまする。
冴え渡った青い空には、白い雲の塊が一つ凍りついたように浮かんでいた。
「東北は、来週にはもう冬かも知れねえもんな、サヨ」
拳磨は革ジャンのファスナーを胸元まで引き上げると、エンジンをかけた。
(了)

この物語はフィクションであり、物語を構成する一部の技術に、実際と異なる演出や表現があります。
また、物語の構成上、一部に現存及び類似する商品、商標、人物、団体名などが登場しますが、これらはその経済的価値を利用し、またはその信用を損ねる目的で使用しているものではありません。
執筆に当たっては、製造業関係者の皆様のご協力を得ていますが、作中に誤りがあった場合には、それはすべて作者が創造したものか、認識不足によるところです。

上野 歩

SPECIAL THANKS
株式会社ヒューテック・藤原多喜夫社長
株式会社秋山製作所・秋山哲也社長
厚生労働省職業能力開発局能力評価課・松村岳明技能振興係長
中央職業能力開発協会、東京都職業能力開発協会、株式会社日立製作所電力システム社日立事業所の皆さん

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