執筆者:斉藤雄久氏(AIC Vietnam Co.,LTD.代表)
今回は賃金に関して解説します。
1.賃金テーブルの作成義務
(1)現行の労働法において雇用者は、政府が規定した作成原則に基づき、募集・被雇用者の使用・雇用契約の給与交渉および支払いの根拠として、賃金テーブルを作成する責任があります(同法第93条1項)。
(2)この作成原則ですが、基本給の昇給は賃金テーブルに記載された額に基づく必要があり、賃金額は各レベル間で少なくとも5%以上の差を設け、職業訓練を受けた職位の者に対しては、最低賃金より少なくとも7%以上の差をつける必要があります(政令No.49/2013/ND-CP第7条2項、3項b)。
(3)新労働法の条文では、雇用契約に記載される職務、または役職に応じた募集・被雇用者の使用・給与の交渉・支払い基準として、雇用者は賃金テーブルを作成するとなっています(同法第93条1項)。
(4)新労働法で注目すべき点は、“政府が規定した作成原則”という文言が削除されている事です。つまり雇用者はこの作成原則に従う必要がなくなり、被雇用者との協議に基づくだけで、賃金テーブルを作成できる事になりそうです。
(5)そのため、賃金テーブルの当局への提出は不要になると考えます。ただし、新労働法においても、雇用者には賃金テーブルの作成義務はあります。
2.給与支払いの原則
(1)新労働法においては、雇用者は給与の支出を自己決定する被雇用者の権利を、制限あるいは妨害することはできない。また、雇用者あるいは雇用者が指定したその他の業者の商品やサービスの購入に、給与を充てる事を雇用者が強制する事はできないという条文が新たに補則されています(同法第94条2項)。
(2)このような内容は現行の労働法には記載のないものです。昨年あたりから雇用者が自社の製品を被雇用者に、強制的に購入させているようなニュースを、新聞等で見かけるようになりました。おそらく新法で補則された理由として、こうした問題が背景にあると考えます。
3.外貨での支払い
(1)現行法では、雇用契約の期間終了後も被雇用者がそのまま就労し、契約終了日から30日を超えてしまった場合、有期限契約の被雇用者との雇用契約は無期限契約、12ヶ月未満の季節的な業務、特定業務の雇用契約は24ヶ月の有期限契約となります(同法第22条2項)。
(2) 新法でも同様です(同法第20条)。ただし、前回解説した通り同法では、季節的な業務および特定業務の雇用契約がなくなっています。その代わりに短期間の有期限契約を結んだ場合でも、契約の終了日から30日を超えて、被雇用者がそのまま就労している場合、新たに無期限契約を締結する義務が生じてしまいます(同法第20条2項)。
4.給与の銀行振り込み
(1)現行の労働法では、雇用者は口座の開設と維持に関する手数料について、被雇用者と合意する必要があると記載されています(同法第94条2項)。この条文では内容が曖昧であり、給与の振り込みの手数料を、労使のどちらが負担するかが明らかでありません。
(2)新労働法では、銀行振り込みによる給与支払においては、雇用者が口座開設と給与の送金に関連するすべての費用を負担する事が書かれていますので(同法第96条2項)、本件でのトラブルを未然に防ぐ事になります。
執筆者プロフィール
斉藤雄久(さいとう・たかひさ)
東京都葛飾区出身、早稲田大学社会科学部卒。1994年12月のハノイ大学への留学以降、ベトナム在住は25年以上となる。現在AIC Vietnam Co.,LTD.のPresident。当地での豊富なビジネス経験に基づく独自の観点から、法規にも基づく実務的なアドバイス業務を実践するほか、国内外での講演も多数。
AIC Vietnam Co.,LTD.の公式サイトは、こちら
出典:『月刊エミダス ベトナム版』掲載号は、こちら