執筆者:斉藤雄久氏(AIC Vietnam Co.,LTD.代表)
今回も雇用契約書について解説します。
6.試用
(1)新法において補則された内容ですが、企業法などに基づく管理者(注:社長など企業の経営者)に対する試用期間は、180日を超えない期間となります(同法第25条)。社内異動によらず、現地法人の代表者を新たに募集して採用する場合、この規定は非常に有効と考えます。
7.雇用契約の更新
(1)現行法(同法第22条2項)でも新法(同法第20条2項)でも、有期限契約の更新は1回のみ認められ、以降に締結する契約が無期限契約となる事は同様です。ただし、新法においては高齢者(注:定年に達している者)、外国人、企業内の労働者の組織(労働組合など)の指導部の者との契約は適用外となります。
8.期限契約終了後の注意
(1)現行法では、雇用契約の期間終了後も被雇用者がそのまま就労し、契約終了日から30日を超えてしまった場合、有期限契約の被雇用者との雇用契約は無期限契約、12ヶ月未満の季節的な業務、特定業務の雇用契約は24ヶ月の有期限契約となります(同法第22条2項)。
(2)新法でも同様です(同法第20条)。ただし、前回解説した通り同法では、季節的な業務および特定業務の雇用契約がなくなっています。その代わりに短期間の有期限契約を結んだ場合でも、契約の終了日から30日を超えて、被雇用者がそのまま就労している場合、新たに無期限契約を締結する義務が生じてしまいます(同法第20条2項)。
9.雇用契約を解除する際の雇用者の責任
(1)現行法では、労使双方は解除日から7営業日以内に、それぞれの権利に関わる事項を清算する義務があります。また、特別な場合(天災など)には30日以内の期間で、延長が可能と規定されています(同法第47条2項)。
(2)新法では雇用契約の解除日から清算までの期間が、14営業日以内に修正されています。ただし、延長できる期間は同様に30日以内です(同法第48条1項)。
(3)雇用者が、預かっている各種社会保険手帳などを被雇用者に返却する義務は、両法とも同様です(現行法第47条3項、新法第48条3項)。新法では、必要に応じて被雇用者の勤務記録(例えば、雇用契約書、退職証明書等)に関連する資料の写しを、雇用者の費用負担で提供することが補則されています(同法第48条3項b)。
10.外国人との雇用契約の解除
(1)現行法にはない内容ですが、外国人との雇用契約が解除になる以下の二つの事例が、新法には補則されています(同法第34条5項、12項)。①裁判所の判決・決定、国の管轄機関の決定に基づき、外国人が国外退去となった。②労働許可書が無効になった。
11.複数の雇用者との契約
(1)現行法には、「被雇用者は、複数の雇用者と雇用契約を締結することができる。」と記載されており(同法第21条)、被雇用者が兼業や副業を行う事が、法規上で認められています。従って兼業、副業を禁じる事を、雇用契約書、就業規則などにそのまま記載する事は、違法となります。
(2)新法においても、被雇用者が複数の雇用契約を締結する事が認められています(同法第19条)。
(3)こういった場合、各種強制保険の負担について、現行の規定では社会保険・失業保険は最初に雇用契約締結した雇用者が加入します(通達No.44/2013/ND-CP第4条1a)。また、医療保険は最も高い給与を支払う雇用者が負担します(同通達第4条2a)。
(4)新法では、社会保険法、医療保険法、失業保険法、労働安全衛生法の規定に従うとだけ記載されています(同法第19 条2項)。同法の施行にあたり、各種強制保険に関する法規も改正され事が予想されます。
執筆者プロフィール
斉藤雄久(さいとう・たかひさ)
東京都葛飾区出身、早稲田大学社会科学部卒。1994年12月のハノイ大学への留学以降、ベトナム在住は25年以上となる。現在AIC Vietnam Co.,LTD.のPresident。当地での豊富なビジネス経験に基づく独自の観点から、法規にも基づく実務的なアドバイス業務を実践するほか、国内外での講演も多数。
AIC Vietnam Co.,LTD.の公式サイトは、こちら
出典:『月刊エミダス ベトナム版』掲載号は、こちら