執筆者:斉藤雄久氏(AIC Vietnam Co.,LTD.代表)
新労働法は、昨年11月20日の国会で可決、同年12月3日付けで公布されました。ただし、その施行は来年の1月1日です。同法は改正法ではありませんので、その施行に伴って、現行法およびその施行細則は失効します。新労働法への対応については、今後の施行細則の公布を待って、検討されれば十分です。
さて、新労働法に関する第一回として、有給休暇の清算について解説します。特に製造業の方に関心の高いテーマと考えます。
1.現行法、新法における概要
(1)現行法では、被雇用者が、退職・失業(注:会社都合退職)、その他の理由により年次有給休暇をすべて消化していない場合、未消化分を賃金として清算することが可能です。(同法第114条1項)。
(2)一方の新法では、被雇用者の退職・失業により消化されていない有給休暇は賃金として清算できるとなっております(同法第113条3項)。
2.実務上の問題点
(1)現行法においては、有給休暇の繰り越しへの制限についての規制がありません。そのため、雇用者は就業規則において、未消化分の有給休暇を毎年、あるいは繰り越しの期限を1年間とする内容を記載し、その都度金銭で清算する事が可能です。
(2)ただし、被雇用者は雇用者と協議して、最大3年分の有給休暇を1度に取得できるとありますので(同法第111条4項)、これは被雇用者は有給休暇を3年間溜める事が可能と解釈されています。
(3)雇用者としては、3年分の有給休暇をいっぺんに取得されては、業務に支障が生じますし、清算の際の賃金も毎年上昇しますので、社内規程で繰り越しを制限するわけです。
(4)ところが新法では、被雇用者が退職する場合以外では、清算が認められない事になります。ただし、新法でも最大3年分の有給休暇を1度に取得できる点は同様です(同法条113条4項)。
3.対策
雇用者として現時点で考えられる対策は、以下の通りです。
(1)有給休暇の消化を促進する。具体的にはテト休暇、その他の祝日の前後に有給休暇消化日を当てる、あるいは有給休暇の消化日を被雇用者と協議して会社のカレンダーに定める。
(2)就業規則、休暇規程において、連続する日数の有給休暇申請においては、事前の通知期間を定めて、被雇用者が突然長期の休暇を取得する事を防ぐ。
4.有給休暇の清算
現行規定における有給の清算方法は下記の通りです。新労働法の施行後に修正されるかについては、現時点ではまだ分かりません。
(1)基本給ベースで行う事は誤りです。清算時の算出根拠は、以下の通りです(政令No.05/2015/ND-CP第26条3項)。
・6ヶ月以上勤続する被雇用者は、雇用契約書に記載された直近6ヶ月分の平均賃金
・6ヶ月未満勤務の被雇用者は、全ての勤務期間の平均賃金
(2)上記の賃金には、基本給に加えて役職手当などの諸手当、その他の補充額が含まれます(同政令第26条3項、労働傷病兵社会事業省の通達No.47/2015/TT-BLDTBXH第14条3項)。
(3)賃金に含まれる諸手当、その他の補充額の概要は以下の通りです(同通達第4条2項、3項)。
・諸手当:危険・有害な職場での勤務、職位・責任などの手当
・その他の補充額:語学手当、資格手当などです。
(4)食事・住宅・ガソリン代・通信費・冠婚葬祭の一時金といった福利厚生に関連する手当は含まれません(同通達第14条3項、第4条3項)。
執筆者プロフィール
斉藤雄久(さいとう・たかひさ)
東京都葛飾区出身、早稲田大学社会科学部卒。1994年12月のハノイ大学への留学以降、ベトナム在住は25年以上となる。現在AIC Vietnam Co.,LTD.のPresident。当地での豊富なビジネス経験に基づく独自の観点から、法規にも基づく実務的なアドバイス業務を実践するほか、国内外での講演も多数。
AIC Vietnam Co.,LTD.の公式サイトは、こちら
出典:『月刊エミダス ベトナム版』掲載号は、こちら