
「きょうは、どう言って土門さんを誘ったんですか?」
「このあいだ会社で会ったとき、わたしといっしょにいたコとお茶でも飲まないって」
「そしたら、彼、なにか言ってました?」
「“う”って」
「“う”ですか?」
「“あ”だったかな。なにしろ、無口なのよ土門君」
そこに、
「お待たせー」
という声とともにジーンズの短い脚が2人のまえに立った。
顔を上げた明希子は、
「!」
一瞬唖然としてしまった。
「菊本君!」
「おっと、おぼえててくれたんスねえ、アッコさん。感激っス」
隣で理恵が泣き出しそうな顔になった。
「土門君は?」
「いやね、センパイひとりで粗相があっちゃあいけねえと思いましてね。なにしろ愛想がねえんだから土門センパイは――。ほら、センパイ、なにそんなとこでもじもじしてるんスか。こっちにきてくださいよ」
菊本が呼ぶと、大きな影がゆらりと現れた。
土門はちょこんと頭を下げると、大きなからだを縮こめるようにして座った。
途端に理恵の眼がハート型になる。
「しかしよかったなー、こうやって2人して残業もしないでアッコさんたちのお相手ができるのも、工場が暇だからだもんな」
菊本が言った。
「暇なの工場?」
明希子はすかさずきく。
「もう、暇で暇で。なんたって、五軸のマシニングを2台も入れたってーのに、ぜんぜん仕事がこないんスからね」
明希子の頭の上を暗い影がゆっくりと通り過ぎた。
EMIDAS magazine Vol.12 2006 掲載
※ この作品はフィクションであり、登場する人物、機関、団体等は、実在のものとは関係ありません