成長企業の経営戦略

株式会社ナガエ 代表取締役社長 長柄 洋一 氏

株式会社ナガエ 代表取締役社長 長柄 洋一 氏

プレス、板金加工からダイカストへ

富山県第二の都市・高岡市は、伝統工芸の高岡銅器に代表される鋳物の町である。高岡銅器の職人技術の結晶ともいうべき高岡大仏は、奈良大仏、鎌倉大仏に並ぶ日本三大仏を称する。「その流れを汲んでいるかというと、さにあらずなんです」と株式会社ナガエ代表取締役社長・長柄洋一氏は笑う。1954年、長柄氏の祖父・常次郎氏がアルミ製品用プレス金型、工作機械の製作を行う作業場として市内横田町に創業したのが同社だ。
その後、規模を拡大しつつ市内にて移転。62年に、同社の動向を決定づけるガスメーター部品の製造を開始する。66年、現在の市内荒屋敷に移転。翌年にはダイカスト工場を竣工している。
「ダイカスト製造を始めたのは、ガスメーターが時代とともに鉄プレス製品からダイカスト製に代わったからです」 つまり同社は、ガスメーターという根幹をなす営業品目の変化とともにプレス、板金加工からダイカスト製造へと転身したわけである。しかし、それが強みになった。アルミダイカスト技術+金属加工技術の受注を可能にしたのだ。

鋳造から仕上げまでをワンストップ対応

「ダイカストは設備産業です。ガスメーターの繁忙期以外も、この設備を稼働させなければなりません」
70年代には、ダイカストによる花器や置物などの美術工芸品を業界初として生産開始している。
90年、CIを導入し、それまでの長柄製作所からナガエに社名変更。
長柄氏は2000年に入社。ダイカストの製造部門の現場で働き始める。05年には、中心になってダイカスト第二工場の竣工を行った。13年のナガエベトナムの設立と工場竣工の中心になったのも彼だ。
「それ以前から、中国に価格的に負けることが多く、海外展開を考えるようになりました。さまざまな要因から中国は候補から外れ、タイやインドネシアは自動車関係が先行し我々の進出先としてはネガティブ。ベトナムがチャイナ+1と言われだした時期で、当方の事業可能性に合致したのです」
ベトナムには、本社工場に保有していない塗装ラインを設置。社内に保有する工程および、ナガエがハブになり全国の協力企業からの供給を受けることで仕上げ加工までワンストップの対応を可能とした。
「ナガエの位置づけは企画・設計・意匠提案から、ダイカストや砂型鋳物、各種加工、アッセンブリーを内製化しているアッセンブリーメーカーとなります。これもスタート時が、プレス金型、工作機械の製造・修理会社だったというマインドがあってこそだと思います」

助走は終わった、すでに走り出している

ダイカスト製造は自動車関係が大半を占める。それ以外の10%の領域が、同社の営業品目だ。すなわち、建築金物、計量器、自動車、輸送機器、建設機械、医療・介護、農機具、機械、計測機器、弱電、通信と多岐にわたる。これらを扱うテクノ事業部に加え、同社のもうひとつの顔がアート事業部である。美術工芸品から仏具、建築造形、インテリア小物までの企画・デザイン・設計・製造・製作施工を行う。
高岡銅器の伝統の流れをくむ銀雅堂(ぎんがどう)製品は、原型、鋳物、研磨いずれも伝統工芸を受け継いだ職人の手により丹精込めたインテリア製品だ。花器、酒器、兜、仏像、縁起物などをラインアップ。これらオリジナル商材についてはギフトショー、インテリアライフスタイル展に出品しているほか、ニューヨークやパリで開催される展示会にも出展している。
また、東京の吉祥寺駅前にある「ゾウのはな子」の像や、八王子にあるカリスマホスト・ROLAND氏の博物館にある胸像など屋外モニュメントも制作。ダイカストのサプライヤーとして、特定のジャンルにこだわらず金属の美しさを広めている。
2016年、長柄氏は社長に就任。「ナガエベトナムについても、計画していた速度よりも遅いが、なだらかに階段は上ってきました」。ところが、ここに来てのコロナ禍である。「当社の売上構成比率の20%程度を占めるのが、ガスメーター部品です。その多くを占めるプロパンガス用のメーターの10年ごとの交換が法で定められています。それが、当社の繁忙期になるわけです。リーマンショックの時期は、ちょうどこの繁忙期のピークと重なっていました。ですから、影響が少なく済みました。ところが、今回のコロナ禍の場合には、プロパンガス用メーターの底の時期とちょうど重なってしまいました。今まさにその影響下にあります。そこに電気代の高騰や円安も加わって、今が一番厳しい状況かもしれません」
もちろん、この間も新分野の開拓には暇(いとま)がない。同社が企画製造したhossNAGAEは、室内用物干しアイテムである。花粉や黄砂、PM2.5などの浮遊物、セキュリティー面から洗濯物の室内干しが一般化している。hossNAGAEは、アルミ素材のほか、竹材を使用している。筍(たけのこ)を採るために栽培されていた孟宗竹の竹林が放置された結果、周囲の植生に悪影響を及ぼすのを竹害(ちくがい)と呼ぶ。竹を素材とすることで、社会問題のソリューションとなる。hossNAGAEは天吊りスライド式、窓枠用などをラインアップ。機能面だけでなくスタイリッシュで、GOODDESIGNAWARD2021を受賞。また、同社が企画製造するアルミフレームによるナガエ避難所間仕切りも、同賞を受賞している。
「もはや助走期間は終わり、走りだしています」


取材・文:上野 歩 / 撮影:山本 基


株式会社ナガエ

所在地

〒933-0319 富山県高岡市荒屋敷278

TEL

0766-31-1278(代)

FAX

0766-31-5585

URL

https://nagae.co.jp/

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