特集:プラスチック成形

ファナック株式会社

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電動射出成形機開発はゼロからのスタート

「これからは油圧ではなく電気の時代。ファナックでやるなら電動だ」――ファナック株式会社の名誉会長の稲葉清右衛門氏は、1983年電動射出成形機の開発を決めた。当時、世界最大の工作機械メーカー、シンシナティ・ミラクロン(以下、ミラクロン)の会長ジェームス・ガイヤー氏から射出成形機の共同開発の提案を受けたことからその挑戦が始まる。当時射出成形機と言えば油圧式。だがファナックには射出成形機の知見も実績もない。そこでミラクロンから技術ライセンスの供与を受ける代わりに、アメリカでの独占販売権を与える契約を結んだ。こうしてファナックの電動射出成形機の開発プロジェクトが始動し、そのチームに選ばれたのが現会長の稲葉善治氏だ。

善治氏にとって射出成形機は全く未知の状態。1983年11月 にドイツのデュッセルドルフの展示会で初めて射出成形機を見た善治氏は「得体の知れない機械だ」と感じたという。翌年1月に渡米。総勢5人のスタッフで昼は射出成形機の構造、製造技術、そしてプラスチックの成形プロセスを学ぶチームに分かれてミラクロンで研修を受け、帰宅すると夜中まで電動サーボ式射出成形機の基本設計をした。当時はCADが一般的ではない時代。ドラフターを持ち込んで鉛筆で図面を引いていたという。3カ月後の4月に帰国すると、同年11月に30t、50t、75tの3機種を同時発売するという計画が待っていた。基本構想は既に目途が付いていたものの、問題は山積していた。

当時のサーボモーターでは射出成形機に必要なパワーとレスポンスを合わせ持つことはできない。最強の磁石とされたサマリウムコバルト磁石をふんだんに使用することで「化け物みたいなモーター」を作り上げた。ボールスクリューは工作機械に使われていたが、射出成形機で用いるには負荷容量不足であった。そこで日本精工(NSK) に依頼して巨大な負荷容量を持つモンスターボールスクリューを開発。さらに制御面では、電動式は位置と速度の制御だけではなく圧力の切り替え(VP切替)が必要となる。速度制御から圧力制御に瞬時に切り替える技術も独自開発した。こうして社内外の協力を得ながら、世界初の電動サーボ式射出成形機「FANUC AUTOSHOT」が完成したのだ。

電動射出成形機が売れない!

苦労の末に誕生した電動射出成形機は発売当初、全く売れず、10年近くも赤字続きだった。最初に高い評価をしたのは光学機メーカーだった。カメラのズームレンズで使用される非球面レンズを成形するのに、精密成形を得意とする電動射出成形機がマッチしたのだ。しかし精密成形の用途はまだ限定的。電動式は油圧式よりも消費電力を大幅に削減できるが、本体価格が油圧式より高く、顧客には見向きもされない。自動化に適するが、当時の成形工場にはまだ取出ロボットが普及していなかった。電動射出成形機は時代を先取りしすぎてしまったのだ。

時代がファナックに追いついた

「電動式は油圧式に比べ安定していて後工程も少ない」という口コミが広がってくると、国内での導入が次第に増えていく。アメリカで売れ始めたことも大きい。これまでは75tが限界だったが、モーターが進化し大型機のラインアップを取り揃えた。こうして射出成形機は油圧式から電動式へ転換し、ついにファナックはマーケットシェアのトップに立った。現代では製造業の常識となった「省エネ、自動化、精密性」というスローガンは、ファナックの電動射出成形機によってもたらされたといっても過言ではないだろう。

善治氏によれば「当初電動式にネガティブだった各社も、今や電動式を販売している。日本の成形現場は電動式が90%近く占めているが、ヨーロッパではまだ20~30%と伸び代がある」という。これからも電動射出成形機は進化を遂げていく。「現場の肌感覚はとても大事です。鉄と油と汗、ときどき涙。これがなければ一人前の機械屋にはなれません」と善治氏は語るように、成形工場と機械メーカーは二人三脚で日本の製造業を支えていく。

ファナック株式会社

住所

〒401-0597
山梨県南都留郡忍野村忍草3580

TEL

0555-84-5555

FAX

0555-84-5512

URL

https://www.fanuc.co.jp/

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