特集:自社商品開発
昨今、労働人口が減少する中、工場の省人・無人化が注目されている。また、機械加工の現場では、技術伝承を経験や感覚で補っている企業も少なくないだろう。それらを緻密に数値化・グラフ化することで加工に活かし、より効率的に高精度のものづくりを実現する株式会社山本金属製作所の現場に伺った。
モニタリング画像を前に、
左から岡山研究開発センター研究開発G
松田博士、村上博士、技術開発部 山本隆将氏
株式会社山本金属製作所が岡山研究開発センターを設立して10年になる。同センターでは、コア技術である精密加工技術、計測評価技術の高度化研究、人財育成などを目的とした、モニタリング技術のレンタル・販売、教育支援サービスを行う。また加工ソリューション事業とロボットSler事業の売上は、山本金属グループ全体売上高の約10%、利益率では30%を占めている。
岡山研究開発センターが今、力を入れている商品に『M U L T IINTELLIGENCE®』(以下、MI)がある。MIは、機械加工時の温度・振動・力をリアルタイムにモニタリングすることができるIoTデバイスである。これを利用すると、加工点近傍で生じる物理現象を数値化することができ、異常時の原因究明や、加工条件の適正化に役立つ。工作機械の様々なインターフェースに対応しており、MI本体に市販工具を取り付けて利用できる。デバイス内部には無線送受信機を搭載しているため、回転する工具でもワイヤレスで測定ができる。つまり、今まで熟練技能者が加工時の音や切屑の形状・色などで確認・改善してきた工程を数値化することで、誰もが熟練工と同等の技術力を早い段階で身に着けることができるのだ。
もともと、同社は切削加工屋として1965年2月に創業。10年前より、長年の加工経験を活かした技術開発・製品開発に取組んできた。切削加工中の物理現象、状態を生産現場でリアルタイムに知ることが技術向上に役立つと考えてきた。当時、工具に係る振動と力を測定する技術は既に存在していたが、どれも生産現場での使用は困難なものであった。また、加工中に発生する熱を間近で測ることは不可能だった。そこで、同社では自社向けに、加工中の温度を計測するモニタリング機器の開発を始めた。2013年、社内の工学博士による研究、外部の開発協力を得て、第一作が完成。これがMIの始まりである。さらに、振動の計測機能を持たせるなど開発を進めた。温度管理が重要とされるFSW(摩擦攪拌接合)にも同技術を応用し、2016年にFSW用MIが完成した。
設備に設置されたモニタリング画像を確認
FSW(Frict ion St ir Welding)とは、1991年に英国のThe Welding Institute(TWI)によって発明・開発された新しい接合技術である。高温反応を用いて行われている従来の溶接に代わり、低温で短時間の接合を実現する。日本語では『摩擦攪拌接合』といい、先端に突起のある円筒状の工具(ツール)を回転させながら強い力で押し付けることによって発生した摩擦熱で母材を軟化させるとともに、工具の回転力によって接合部周辺を塑性流動させ、練り混ぜることで複数の部材を一体化させる接合法である。
従来の溶接よりも電力消費を抑えられ、溶けて飛び散った金属の粒(スパッタ)を発生させることもない。溶融接合が難しいとされてきたAl合金接合や、異種材接合も難なく可能にする同技術だが、その評価に反して普及率は低く、中小ものづくり企業からは「興味はあるが、社内で前例がなく、相談できる機関が少ない」や「実技演習を伴ったFSWの接合理論を学べる場がない」などといった声が挙がっていた。
そこで同社は2019年からエンジニアを対象とした教育支援サービスを行う。これは現在、最も注力しているサービスになる。MIの販売・レンタルを行い、それに並行して教育支援サービスを提供。製造部門のオペレータ―向けに初・中・上級研修を3コース用意している。実際に現場で使えるような条件出し、生産ラインの決め方、データの管理方法、解析方法のレクチャーを行う。マシニングセンタを使用した切削加工、FSWなど、複数のプロセスを取り扱える高度生産技術者を生み出すねらいだ。
同サービスの利用者からは、「品質にFSWの原理が紐づいて学ぶことができ、現状に起こっている課題の深堀ができた」や「FSWを実体験し、ツールの回転速度や押し込み量、ツール移動速度等の変化にともなう接合部の品質変化を体験できた」という声が届いている。 MIを発売したばかりの頃は、高額な費用やデータの扱い方が分からないという課題があり、中小企業まで普及させることは困難だった。今では切削用とFSW用のMIを販売している。導入先にはEV関係、バッテリーケース、モーターのケーシング、ECU部品、インバーター(周波数変換機)のメーカーなど、企業規模を問わない実績を持つ。
これからの時代、労働人口が減っていく中で工場の省人化、技術伝承は製造業界の、ひいては日本の課題になっていくだろう。株式会社山本金属製作所ではMIの他に、残留応力測定や材料試験の受託サービス、Learning Factory(学習型工場)の研究開発も進めている。教育支援サービスを通して、個人の成熟した経験や勘による暗黙知を数値化し、解析することで次世代へ伝承していく。製造業界に新しい常識が生まれ始めている。
アルミニウム×マグネシウム
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