特集:宇宙
人類は、やがて21世紀の海外旅行の感覚で、宇宙へと飛び立ち、宇宙から地球を俯瞰することになるだろう。誰もが思い描くこうした近未来像は、すぐにでも手が届きそうだが、現実としては、どのような段階にあるのだろうか。その最前線で挑戦を続けている企業を訪ねた。
今よりも、もっと宇宙を身近な場所にし、豊かで平和な世界を実現するために、PDエアロスペース株式会社では、人や物をより安く、より安全に宇宙空間に運ぶための独自の宇宙輸送システムの構築に取り組んでいる。
同社の代表取締役社長である緒川修治氏は、自らを「あきらめがものすごく悪い」と破顔しながら語る。同社は、H.I.S.やANAHDとの資本提携を経て、一民間企業として「有人宇宙機」の開発を目指す。この難関プロジェクト推進の原動力は、とにもかくにも緒川氏のチャレンジ精神だ。
緒川氏が目指す「完全再使用型弾道宇宙往還機」は、従来のような使い捨ての垂直打ち上げ型ロケットではなく、航空機のようにシステムの全てを繰り返し使うことができ、離発着できる乗り物だ。
「宇宙が好きだ」と目を輝かせる人は多い。しかし、一過性な夢や憧れではなく、目の前の課題に根気強く挑戦し続けることは、決してたやすいことではない。この夢を牽引する緒川氏は、幼い頃からパイロットや宇宙飛行士を夢見てきた。自衛隊、エアライン、航空大学、コミュータ、そしてJAXAと、ありとあらゆる試験に挑戦をした。しかし、いずれも不合格。それでも、この分野への熱は冷めず、社会人になってからは、三菱重工業で新型航空機開発プロジェクトに参加した。その過程でもう一度学び直そうと考え、東北大学大学院の航空宇宙工学で学びもした。その後、アイシン精機で自動車エンジン部品の開発に携わりながら、独自に新型エンジンの研究開発を始めた。
緒川氏は、小学校時代より、父親が自宅で行う研究や実験を手伝ってきた。主な研究対象は「パルスジェットエンジン」であった。このエンジンは、第二次世界大戦中にドイツが巡航ミサイルに使用したことで知られるもので、コンプレッサーもタービンも持たず、1本の導管から成るジェット推進エンジンである。
この簡素な構造が、緒川氏の発想を刺激した。家の壁に掛けられたパルスジェットエンジンの構造図と、大学院で学んでいたスクラムジェットエンジンの燃焼現象(強燃焼と弱燃焼の2つの燃焼モード)から「もしかしたら、ジェット燃焼とロケット燃焼を1つのエンジンで作動させることが出来るかもしれない」との発想が生まれた。そして、昼は仕事、夜は新型エンジンの研究に打ち込む日々が始まった。
宇宙機は次のような航路をたどる予定だ。まず、地上から航空機のように離陸させ、大気中をジェットモードで飛行し、高度15km付近でロケットモードに切り替え、一気に加速して宇宙空間へ到達。その後、地球の重力に引かれ、高層大気に再突入した後、滑空および再度ジェットモードに切り替えて、動力を得て飛行し、空港に着陸する。
この新型エンジンによって、機体システムが簡素になるだけではなく、いつでもアボート(中止)が可能になり、帰還時に動力飛行が出来るため、必要とされる滑走路長は短くて済み、既存空港への着陸が可能となる。また、他の航空機のように、上空待機も可能となるなど、コスト低減をさせつつ、汎用性、安全性を向上させることができる。
そして、2017年7月24日、同社はついに宇宙機のキーテクノロジーとなる「ジェットーロケット燃焼モード切替エンジン」の実証実験に成功した。
基本原理は、爆轟(デトネーション)と呼ばれる衝撃波を伴った燃焼形態をもつパルスデトネーションエンジン(PDE)の特徴を活かし、①大気中では空気を酸化剤に用いて燃焼させるジェット燃焼と、②宇宙空間を含む希薄大気環境では、純酸素など自機に搭載した酸化剤を用いるロケット燃焼を、単一のエンジンで切り替えて作動させるものだ。
今後同社では、本技術を、まずはサブオービタル(弾道)宇宙機用エンジンに適用し、商業宇宙旅行実現に向けて開発を進めていく。運行開始の目標は、2023年である。
現在同社は、この宇宙機開発プロジェクトへの参画を広く一般に呼び掛けている。参画の要件を伺ったところ、「今現在、宇宙航空業界の実績があるかどうかではなく、やると決めたらとことん一緒にやってくれる企業、人なら大歓迎」ということだった。いまこのプロジェクトには、大学や企業の他、社会人ボランティア、インターン生など、様々な人たちが得意分野を持ち寄って参加し、一丸となって挑戦を続けている。
所在地 |
本社:〒458-0924 愛知県名古屋市緑区有松3519番地 |
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TEL |
052-621-6996 |
URL |
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設立 |
2007年 |