特集:「食」のものづくり
カラーにもそれぞれに意味が詰まる
本業からはまったく想像がつかないブランド「iiwan」(いいわん)を立ち上げた。これまでのB to Bとは売り方がまったく異なるB to Cの世界。ブランディングノウハウなどはない。すべてが手探りだ。
「iiwan」は、とうもろこしなどのデンプンを原料とし、発酵により得た乳酸を結合させて「ポリ乳酸」が作られる。ペレット化されたポリ乳酸は、溶解して金型内に射出し成形する。「本業のほうでプラの金型は作っていましたが、量産はやっていませんでした。量産に対する先入観がなかったことが、かえって新しいものにチャレンジするうえでよかったと思います」とプロジェクトの立ち上げを行った常務の美和敬弘氏は言う。
海外展示会でもファンを獲得
2000年当時、豊栄工業は、プレス金型製作のほかに、新たにプラ金型の製作を始め、またその部品生産についても検討を進めていた。しかし、豊栄工業が量産を開始するには、すでに後塵を拝している。何かできることはないかと手探りしていたとき、美和氏がたまたま参加したセミナーの最後で、とうもろこし素材のサンプルと出会った。実は、これは10年越しの再会だった。
美和氏が学生だった90年代、最終的に水と二酸化炭素に分解される植物由来樹脂の存在を初めて知った。埋めておけばやがては土に返る天然素材は、人にも地球環境にも優しい。しかし、社会人になってみると、誰もそんな話はしていない。ずっと胸の中に秘めていた技術が、その日、目の前にあった。
他の聴講者は見向きもしないサンプルに釘付けになった美和氏は、すぐにセミナー講師だった小松道男氏(小松技術士事務所)に相談を持ちかけた。
2005年の愛・地球博(愛知万博)で、植物由来のプラスチックはあったものの、実際は耐熱ポリ乳酸製品の生産には難があり、歩留まりも悪く、扱いづらかった。小松氏の研究は、こうした問題を克服し、量産化できることを証明していた。「誰もやっていないことなら、いまから始めれば最先端を走れるだろう」。小松氏の技術指導のもと美和氏を中心とした更なる技術の開発と新商品の開発が始まった。
新商品開発の当初から、幼児食器を作ろうと思っていたわけではなかった。2007年経済産業省のサポイン(サポーティングインダストリー、戦略的基盤技術高度化支援事業)の支援を受け、3カ年の研究開発の後、最初に商品化されたのは、1個700円という高級プリンの容器だった。プリンは製造の過程で高温にさらされることになる。これにより苦手とされていた耐熱問題をクリアしたことが証明された。
その後、情報家電の筐体などでの適用を試みたが、材料物性が製品規格を満たさない。素材のよさを活かし商品化できるものということで、幼児食器が候補に上がった。市場に出回っている多くの幼児食器には外国製も多く、バリがあったり、材料や表面塗装にも不安が残る。安心・安全な幼児食器を目指した。
さて、方針は決まったが、社内にはデザインのノウハウがない。
そこで、プロダクトデザイナーとして某完成車メーカーの内装デザインを経て独立していた市場純生氏(市場デザインスタジオ)にデザインを依頼。機能性、デザイン性を追求した商品を生み出していくことになった。
MY-FIRST-DISH⦆ 人生ではじめて使う食器
「iiwan」は、食器表面へのコーティングはしていない。また、表面は光っていないが、平滑度は鏡面仕上げをしたものよりも高い。これは、金型に特殊な加工があるためで、お家芸のノウハウが大いに役立った点だ。
また、射出成形物の常識よりもずっと肉厚に仕上がっている。これは、食器としての使いやすさを追求した結果だが、肉厚だと成形後にヒケやすい。材料メーカーと材料仕様を決める工程で、その都度金型も修正せねばならなかった。
そして、食器が倒れないよう重心を下にもってきた形状。フォルムはすべてやわらかい曲面で構成されている。1つひとつのこだわりを盛り込もうとすると、商品化の過程で改良すべき点が膨大に出てくる。すべてが常識外のチャレンジだった。
しかし、こうした努力と品質が認められ、2011年にはグッドデザイン賞を受賞。また、インテリア界では世界最高峰と言われる見本市「メゾン・エ・オブジェ・パリ」にも出展し、ヨーロッパの目利きたちの高評価を得た。会期中にイタリアのセレクトショップから商品を扱いたいとの申し出もあり、ヨーロッパでの評価を受けて、国内での展開を図って行くこととなった。
まず素材の良さによる安心、そして幼児が使ってもこぼさない安全な形状。こうした魅力から、無添加食材を使っている店舗やセレクトショップなどに飛び込み営業を行った。コンセプトを理解してくれるお店を1軒ずつ開拓し、現在では販売代理店が全国約50店舗。東京の代官山など、セレブたちが訪れるこだわりのお店で長くトップセラーの位置に置かれている。
また、SNSなどで使用者の口コミが広がり、現在では、「iiwan」という商品名は幼児食器の代名詞のように言われるまでになった。
成形機
「iiwan」というブランド名の由来は、「eco」のe、また「いいね」のiiの音、そして「お茶碗」のwanからの造語だ。幼児食器シリーズとして、子どもが最初に接する食器は安心・安全であることを基本に、子どもたちが食育を通して、感性豊かな、そして心身ともに健康に育つという願いが込められている。
こうした心は、パッケージにも表現されている。ギフトセットの箱は、ケーキの箱を見立てて作られており、製作者のメッセージが文字や絵でも表現されている。こうしたこだわりが、出産祝いとして定番の地位を確立した。
豊栄工業のこだわりは、徹底したブランド化にも現れている。「iiwan」商品には、どこにも豊栄工業という社名が入っておらず、豊栄工業として培って来た工業のイメージを一掃している。社員の名刺でも、「iiwan」担当者の名刺には豊栄工業の文字が入っていないという徹底ぶりだ。「B to Cの場合、ブランドの世界観を重視しないと商品の価値が下がってしまいます。地道に確実にやっていくことが大切」と、美和氏は商品開発の極意を締めくくった。
現在、毎月300から500個のオーダーが入る。いま「iiwan」を手にした子どもたちが成長して親になるとき、改めてこの商品の価値を知り、人生はじめての体験が最高であったこと、自分が愛されていることを実感するだろう。
プロジェクト開始日 |
2010年 |
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所在地 |
〒441-1346 愛知県新城市川田字新間平1-369 |
TEL |
0536-22-0696 |
FAX |
0536-22-0896 |
URL |
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hoei@hoic.co.jp |
事業内容 |
植物由来樹脂を使った子どもにとって優しく使いやすい幼児食器の企画・製造・販売 |