エミダスマガジン 特別コラム

HILLTOP株式会社

夢工場ができるまで
日本最強のクリエイティブ集団 『遊ぶ鉄工所』

HILLTOP株式会社

HILLTOP株式会社代表取締役副社長・山本昌作が執筆した『ディズニー、NASAが認めた遊ぶ鉄工所』(ダイヤモンド社 ISBN978-4-478-10371-5)が話題を集めている。これまでも年間2,000人超が訪れる工場見学には、この本の出版を機にさらに申し込みが殺到。山本への講演依頼も倍になった。山本と、同社東京オフィス支社長・静本雅大へのインタビューで同社の今と未来を聞いた。

楽しくなければ仕事じゃない

「仕事の楽しさは、知的作業の中にあります」と山本は言いきる。

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HILLTOPでは、AGV(AutomaticGuided Vehicle=無人搬送車)を開発している。受注があって開発を始めたのではない。楽しそうだから、社員のスキルアップにつながるからだ。開発にかかった費用は約1億円。すべて自費である。このAGVを、披露すると、スーパーゼネコンから搬送用ロボットの開発に力を貸してほしいと依頼がきた。予算は1,000万円。1億円かかったのに、1,000万円の売り上げでは実りが少ないではないかと普通なら考えるところだが、山本の考えは違う。

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「全部自費だと思っていたから、1,000万円も稼げてよかった」になる。

 “儲かりそう”よりも“楽しそう”を重要視し、失敗しても新しいことにチャレンジしたことを評価する寛容――これがHILLTOPのスピリッツであり、『遊ぶ鉄工所』には、満載された楽しいエピソードとともにそれが描かれている。

ヒルトップ・システム

HILLTOPの前身、山本精工は、山本の兄・正範(まさひろ 現・代表取締役社長)を思って両親が興した会社である。正範は3歳の時に大病を患い、治療薬の副作用で聴力を失った。彼が「働き口に困らないように」と鉄工所を始めたのだ。なるほど、正範は手の感覚で精度を確認できる本物の職人への道を歩んでいた。

山本が入社した1977年当時、山本精工は社員が5~6人ほどの零細町工場で、ひたすら自動車部品の量産という孫請け仕事を行っていた。「仕事の楽しさは知的作業の中にある」と考える山本にしてみれば、それは耐え難いものだった。楽しくなければ仕事ではないのである。そこで、思いきって売り上げの8割を占める自動車部品の仕事をやめ、知的作業の多い単品もの主体に切り替えた。

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山本が入社して4年が経った頃、「礼儀も教養も知恵もなく、そのうえ眉毛もない」と『遊ぶ鉄工所』で描写される17歳の静本がアルバイトして同社に顔を見せるようになる。

高校卒業後も同社で働くようになった彼を変えたのは、山本と一緒に現場で汗を流しながら語り合う夢だった。「こんなふうに油まみれになるんじゃなく、白衣で働ける工場をつくろう」――それは彼らにとって、まさに夢の工場だった。

日常会話レベルで何度も夢を口にし、仕事は楽しくなければならいが信条の山本にとって、ファーストロットは、あれこれ工夫してつくるのが面白い。ところが、リピートオーダーが入ると、それは「邪魔くさい」のだ。なぜなら、同じ仕事を繰り返すからだ。この面白くないことを取り除くため、加工作業をデータベース化し、コンピュータと機械のオンラインで対応することを思いつく。

職人には、兄・正範のような「本物の職人」と、中途半端な「にわか職人」がいると山本は断言する。「にわか職人」とは、〔経験やカンに頼り、自分の技術を定量的、論理的に説明できない職人。「技術は観て盗め」が口癖。〕だと『遊ぶ鉄工所』に書いている。そんな「にわか職人」などいらない。

同社では、職人がこれまで追求してきた技の結晶の数々をデータベース化し、機械や工程の決定を可能にする生産管理システムを構築し、ファーストロットの加工までをもシナリオ化した。〔普通の鉄工所の場合、就業時間の8割が機械の前、2割がデスク仕事ですが、ヒルトップではこの割合を逆にしました。昼間は、デスクで人がプログラムをつくる。人が帰った夜中に、機械に働いてもらいます。〕(同著)。

ついに完成した「多品種単品・24時間無人加工システム」がHILLTOPシステムだ。

チャンスは平等にある

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建坪600坪、5階建て、東側は全面ガラス張り、外観はコーポレートカラーのピンク色の壁面。工場内の柱は、1本1本がカラフルに色分けされ、赤いキャットウォークが走る。エレベーターの扉はオレンジ色だ。京都フェニックス・パークにそびえるHILLTOP本社屋には多くの人々が見学に訪れる。そしてこの工場は、かつて山本と静本が油まみれになり語り合った“夢”そのものだった。

静本は言う。「今はスーツを着て、東京のきれいなオフィスで仕事をしています。日常会話になるくらい、何度も夢を語り続ける。そうすれば、どんなに大きな夢でも実現する。私はそのことを副社長から教わりました」

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建屋だけがクリエイティブなのではない。社内にあるFoo’s Lab(フーズラボ)は、まだ世の中にないアイデアやプロダクトを生み出していくためのクリエイティブ・スペースだ。ここでは、自社内でのプロジェクトやお客さまのアイデアを形にするサポートをしている。フーズラボには、さまざまなアイデアをその場で形にできるデジタルファブリケーションマシンや工作ツールが揃っている。

「鉄工所に芸術家やデザイナーがいてもいい」と山本は語る。そして、自分の運命も会社の運命も、自分たちで決められるはずだと。「私たちに制限はありません。自由です。メーカーになることも、コーディネーターになることも、新しい市場を切り拓くイノベーターになることもできる。チャンスは平等にあるんです。自分たちの周りにいくらでもあるチャンスを見ようとしないから、つかめない。経営者である私は、外からチャンスを持ってきて事業にすることが仕事です」

今回の『遊ぶ鉄工所』の出版については、「正直ほっとしている」と山本は感想を述べる。「それは、講話などでは語り切れないことをバイブルとして社員に残すことができたから。本が売れたのでなおよかった」

そして、この本に語られていない夢については、「ロボットの開発企業になることです。ドロイド系のロボットをつくる。実はHILLTOPシステムも、いや、事業のすべてがそこに向かっているのです」

どんなロボットを? という質問には、「これ以上はやめておきましょう」と謎めいた笑みを残した。

取材・文=上野 歩

HILLTOP株式会社

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TEL

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