お元気ですか。中央人事総研の大竹です。組織活性化および社員のモチベーションアップを仕掛ける人事制度設計が得意で、
中小製造業のクライアントの問題解決のために日々奔走しております。第3回目の最後は、他社事例です。
人が集まり魅力ある会社を作りたいという強い思いの会社さんの実践事例です。
製造業の皆さんにもとても参考になる事例です。 よろしくお願いします。
大竹英紀執筆 「近代中小企業 28年5月号特集号」より一部抜粋 発行:中小企業経営研究会
~「人が集まり魅力ある会社を作りたい」~
東海地方で食品加工販売業を営むI社、従業員40名
●5年前の状況
I社のK社長は、今から7年前に創業社長から事業承継し、二代目社長として日々会社の指揮を執っていました。
当初、「営業」は古参の役員(部長)に、「製造」は2人の課長に任せていたのですが…。
K社長は営業部長にさまざまな指示をするも、本人は自分の考えで勝手に判断し、なかなか社内がまとまりません。
一方、製造現場では2人の課長が日々の製造に追われて、部下の指導、改善作業までは手が回らない状態です。
また、製造現場では女性のパート社員が多いため、人間関係による細かい揉め事が多いのも苦労の種となっていました。
このような理由から、目標数字の達成が出来ない状態が2年間ほど続いていたのです。
社長は「5年後には売上を10億円」という高い目標を掲げてはいますが、その話を、部長や課長にしても関心を持って前のめりに聞いてくれません。将来の構想はあるが、なかなか突破口が開けない苦悩の時期が続いていました。そして、今から5年前にメインバンク主催の経営セミナーにK社長が参加し、筆者の講演を聞いて「ぜひ、我が社にも大竹さんの考えや仕組みを導入したい」と相談を受けました。
●社内改革の狙い
K社長曰く「一番の改革の狙いは、今いる社員を定着させ、ヤル気、能力を引き上げることです。
そうすれば、全社員の底上げになるし、新しい人も採りやすくなるでしょう」と、力強く話をされていたことが今でも記憶に残っています。
●5年間の改革内容
①社員の仕事を公正に評価する仕組みを作る
②上司が部下ときちんと向き合い、年4回の面談を行う
③現場の改善活動を実践
④パート社員も巻き込むミーティング
⑤クレドを作成し、社長の思いや考えを浸透させる
(具体的な内容)
①社員の仕事を公正に評価する仕組みを作る
まず着手したのが「人事評価」の仕組みです。営業も製造も、各々社員は自分なりに頑張り努力しています。
ところが、会社として、その頑張りや努力の方向性を示していなかったので自己満足的な社員が多くなっていました。
中には「私は毎日遅くまで頑張っているのに、なぜ昇給や賞与が少ないのですか?」と質問する社員もおり、
それに対して会社側は明確な回答ができなかったのです。当然、それが不満で辞めていく社員もいました。
それは、会社としては大変な機会ロスであり、社員の成長のチャンスを奪うことになります。
人事評価の体系は「成果目標」「重要業務」「チャレンジ目標」「取り組み姿勢」の4つです。
社長、幹部社員が議論して、I社オリジナルの評価項目を策定していき、約6カ月間にわたり、次の5つの仕組みを構築しました。
1)会社が社員に期待することを明確にした人財役割基準
2)営業、製造、総務の3部門と管理職、一般職といった階層の2種類で合計6種類の人事評価表の作成
3)人事評価とリンクさせた昇進、昇格制度
4)基本給と諸手当の見直し
5)評価結果をリンクさせた昇給、賞与制度
②上司が部下ときちんと向き合い、年4回の面談を行う
人事制度が成功するか失敗するかは、その運用で決まります。
I社では社員との面談(=成長対話)を半年のサイクル(期首、中間、評価)のタイミングで実施しました。
この「成長対話」は、当人ができないことをできるように、できることをさらにできるようにし、
社員を成長させるのが狙いになります。それを対話で実践する方法です。
当初、課長らは「面談なんて初めてなのでうまくいくかな・・・」と不安を口にしました。
しかし、その教え方、方法論や手順を繰り返し伝えることで不安を解消し、社員に的確な評価結果を
フィードバックすることができるようになったのです。また、社員の仕事への考え方や抱えている問題を直接聞き取ることで、
現場の人間関係の悩みなどを徐々に解決できるようになりました。
③現場の改善活動を実践
特に、製造現場での問題意識を高めるために「提案制度」を導入し、
まずは提案数の多い社員を表彰するなどモチベーションアップを図りました。
④パート社員も巻き込むミーティング
パート社員を巻き込んだミーティングを、昼10分、夕方業務終了後に5分行い、今日の結果と振り返りを一人ずつ発表していきます。
2年ほど前からスタートしたのですが、開始当初の「特にありません」が1カ月を過ぎると、具体的にこうしたい、こう改善した方が良いという意見が徐々に出てくるようになりました。
⑤クレドを作成し、社長の思いや考えを浸透させる
I社の経営理念は「進化する会社へ」です。
K社長は、常日頃「時代の流れは常に変化しており、その時流に乗らなければ、会社は成長発展しない」と説いていましたが、
社員からは、この経営理念に沿った行動がなかなか見られませんでした。
そこで、この経営理念を具体的に行動できるように「クレド」を作ろうと決心しました。
昨年の夏くらいから、営業、製造の課長以上5人を集めて「進化する会社へ」を実現するにはどういった行動が必要か、
具体的に話し合いながら決めていきました。
【幹部のクレド】として、その一部を紹介します。
・自ら新たに行動をしよう
・昨日できなかったことを今日できるようにしよう
・多方面からの情報収集に努め、問題意識を強く持とう
今年からこのクレドを浸透するために、朝礼、会議などで唱和し、個人ごとにクレドができているかをチェックしています。
以上、5つの改革の浸透と定着を、幹部社員を中心に図っています。
こうした取り組みの結果、新たな顧客、取引先が毎年10%程増加し、さらに「同社に入社したい」という求職者も毎年数名ずつ増えています。
I社の社内改革はまだ道半ばですが、経営理念「進化する会社へ」に向かって、さらなる進化を続けており成長がとても楽しみな会社です。
●社員を成長させる会社に人が集まり定着する
I社の社内改革で、このような変化が生じた一番の理由は「社員を成長させている取り組み」にあると判断します。
その結果として、既存社員が定着し、新規採用ができる流れが生まれました。
最後に「まとめ」として解説すると、次のように要約できます。
・社員の不満を取り除き、仕事に集中できる環境を整えた(評価制度導入と運用)
・自分の役割を認識させ、問題意欲を高めている(改善活動とミーティング実施)
・経営理念を共有し、自ら実践している(クレドの実践)
現在、多くの中小企業が人手不足で大変な状況が続いています。
せっかく新規採用をしたとしても、定着率を高める策がない企業は近い将来、大量離職の危機に見舞われます。
新規採用も重要ですが、同時に「今いる社員をいかに成長させるか」が、自社の採用力と定着率を長期的に高める
有効的な手段であると考えます。ぜひ、本稿を参考に、読者の皆様の会社が、採用や社員の定着が長期的に成功するように祈念します。
(執筆者: ㈱中央人事総研 代表取締役 大竹英紀 )