---
二人の関係に生じた小さな「バリ」は、やがて彼女の心を深く傷つける【クラック】へと変わっていた。
「もう、綺麗に噛み合わないの」彼女――プラスチック成形メーカーの製造ラインで働く美咲は、うつむいたままそう呟いた。彼が設計したその金型は、長年の過酷なハイサイクル成形に耐え、何万回、何十万回と彼女の手で製品を生み出し続けてきたものだった。
しかし、度重なるショットの衝撃と、限界を超えた型締め圧によって、その精密なパーティングライン(型の合わせ目)には目に見えない摩耗が生じていたのだ。
「すまない、メンテナンスを怠っていた。君の出す初期サインに、もっと早く気づくべきだった」金型職人である拓也は、冷え切ったダイセットの前に立ち、激しい後悔に苛まれていた。成形条件をいくら調整しても、製品の端には無情なプラスチックの余剰――「バリ」がはみ出してしまう。それはまるで、二人の間に積もり積もった小さなすれ違いのようだった・・・
「このままじゃ、もうこれ以上は打てない。新しい型に変えたほうが、お互いのためかもしれないね」寂しげに笑う彼女の手を、拓也は思わず強く握りしめた。「いや、諦めたくない。僕たちの培ってきたこの型は、まだ死んでいない。僕の手で、もう一度修理させてくれ」拓也は作業着の袖をまくり、工具を手にした。
まずは慎重にボルトを緩め、二人の思い出が詰まった重厚な金型を全分解していく。固着したガスや樹脂の焦げ付きを、専用の洗浄剤で丁寧に洗い流すと、傷ついた金属の素肌が露わになった。ひび割れた心(クラック)を埋めるため、拓也はアルゴンレーザー溶接機のトーチを握る。緻密な熱コントロールで、一滴ずつ同材質の金属ワイヤーを溶着させていく。熱を入れすぎれば型が歪み、弱すぎれば剥がれてしまう。まるで、壊れかけた関係を修復するときの、繊細な言葉選びのように・・・
溶接を終えた後は、最も過酷で、最も愛の試される「磨き」の工程だった。拓也は、粗い目の砥石から手を付けた。肉盛りされた凸凹を削り落とし、徐々に細かなサンドペーパーへと移行していく。「一歩ずつ、焦らずに。隅から順番に、角を潰さないように……」最後は、最高純度のダイヤモンドペーストをなじませたフェルトバフで、ひたすらキャビティを磨き上げた。10回、15回と擦るたびに、削り屑をエアーで丁寧に吹き飛ばす。かつて彼女が惚れ込んだ、あの鏡のような「鏡面仕上げ」の輝きを取り戻すために・・・
何時間、いや何日夜を明かしただろうか。
職人の指先は擦り切れ、それでも研磨の手を止めることはなかった。
数日後・・・
修理を終えた金型は、再び成形機へと強固に取り付けられた。拓也と美咲は、息をのんでその瞬間を見つめる。高熱で溶けた熱可塑性樹脂が、高圧で型内へと射出される。一瞬の静寂の後、冷却を終えた金型が、左右に「カシャリ」と静かに開いた。
「あっ……」
美咲が歓声をあげる。エジェクタピン(突き出しピン)によって押し出された製品は、バリ一つなく、一点の曇りもない完璧な曲線を美しく輝かせていた。長年の傷跡は、まるで熟練の職人が施した金継ぎのように、むしろ強固な絆へと昇華されていた。
「これなら……また何万回でも、一緒に打てるね」美咲の目から、一滴の涙がこぼれ落ちた。拓也はその涙をそっと指で拭い、新しく生まれ変わった金型と、彼女の肩を優しく抱きよせるのだった。
| 会社名 |
株式会社 打田製作所 (うちだせいさくしょ) |
エミダス会員番号 | 49674 |
|---|---|---|---|
| 国 | 日本 | 住所 |
日本 茨城県 稲敷郡阿見町 |
| 電話番号 | 03-3683-2341 | FAX番号 | 03-3683-6678 |
| 資本金 | 1,000 万円 | 年間売上高 | |
| 社員数 | 77人 | 担当者 | 根本尚佳 |
| 産業分類 | 医療機器 / 文房具雑貨 | ||
| 主要取引先 |
|
||
コンテンツについて
サービスについて
NCネットワークについて
