〇引抜き加工とは
 引抜き加工は、穴から金属を引き抜いて伸ばす「塑性加工」のひとつです。
 引抜きは「押出し」とあわせて、バー材の大量生産に欠かせません。
 引抜きでつくられた線材は「引抜き材」とよばれ、電線・ピアノ線・注射針から、半導体の配線ワイヤまで様々な産業で使われています。

〇引抜き加工の詳細
 引抜きは、ダイスと呼ばれる金型の穴に金属を通し、先端から「引抜き」ながら伸ばす「塑性加工法」です。
 ダイスの穴は先細りになっていて、この細くなった穴と同じ径の線材を成形することができます。
 引抜きの材料には、「押出し」でつくられたバー材や管材などの押出し材や、「圧延」でつくられた圧延材などが使われます。
 加工は材料を加熱することなく常温（冷間）で行われ、ダイスを交換しながら、１～１０回ほど「引抜き加工」しながら細い線材に加工していきます。
 ステンレス鋼線では、直径５～１０ミクロンの細さになるまで引抜きされます。
 太いバー材の引抜きは、材料を高温（熱間）にして行われることもあります。

〇引抜き加工のメリット
 引抜き加工には、一般的に以下の４つのメリットがあります。

・材料のロス率が非常に少ない
 引抜き加工は、金属素材の断面形状を塑性加工変形にて変化（断面積を減少）させ、伸ばす加工であるため、断面形状を削って変化させる切削加工と比べると材料のロス率が非常に少ない。
 （★次頁「切削加工とのロス率の比較」図参照）
  これにより、高価な材料を使っても不要になる部分（残材）が少ないため、材料費を下げやすくすることができます。
・寸法精度が良い
  ダイスを通して引抜き加工をするため、寸法精度が良い。（一般：±0.05mm）
  特に金属素材１本に対する⾧さ方向の均一性に優れている。（一般：±0.005mm）
・表面肌が良い
  ダイスを通して引抜き加工をするため、製品の加工面の肌は光沢を有し綺麗である。
  さらに、管材では心金を使うことで、外観だけでなく内側も整った製品になります。
・強度UPが可能である

〇引抜き加工のデメリット
・断面の形が限られる
  引抜き加工は、ダイスと呼ばれる金型の穴に材料を通し引き抜くことで、所望の形状・寸法の製品にすることが出来ます。逆に言うと、ひとつの金型（ダイス）から得ることのできる製品断面の形状・寸法はひとつに限られます。
  このことから、製品の断面形状・寸法毎に金型（ダイス）を用意する必要があります。

・加工硬化による断線
 引抜き加工のメリットとして上記で紹介した、加工硬化による強度UPですが、引抜き時の条件によっては問題を引き起こすこともあります。
 例としては、引抜き前の材料の断面積に対し、所望する引抜き後の製品の断面積の減少の（減面率）が大きい場合、これを一回の引抜きで無理に加工しようとすると、圧力による材料硬化等が大きすぎて、ダイスの出口で材料が破断し断線することがあります。
 一回の引抜きでの適切な断面積の減少率（減面率）は、材料の種類によっても異なりますので注意が必要です。

〇引抜き加工での欠陥
 引抜き加工はメリットが多い加工方法です。しかし、加工時には欠陥が発生することも少なくありません。引抜き加工における欠陥例について、以下に示します。
・焼き付きと呼ばれる線状の筋
 焼き付きとは、材料を引き抜いた際に金型と製品が擦れることで、線状の筋が出てしまう欠陥のことです。
 引抜き加工では、焼き付きを防ぐために材料と金型の間に油を塗布します。しかし、連続で加工
 したり段取りが不十分だったりすると、油膜がなくなってしまうことがあり、これにより材料が焼き付いてしまうことを「焼き付き」と言います。
 焼き付きを防ぐには、下準備を徹底したり湿度に合わせて油を変えたりするなどの対策が必要です。
・曲りや振れ
 加工する際に、力が偏ると製品が曲がってしまいます。原因として考えられるのは、ダイスの向きや製品のセットした位置ずれです。また、ダイスの内径形状の異常によっても発生することがあります。

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