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精密加工の現場でよく耳にする課題のひとつが、「仕上がり寸法が微妙にズレる」「加工面が荒れる」といった現象です。これらの多くは、切削中に発生するトルクや振動、つまり“切削力の変化”に起因しています。
切削中のわずかな力のバランスの崩れが、ミクロン単位の誤差となって現れるため、加工安定性を確保するには「力学的な理解」が不可欠です。この記事では、トルク・剛性・振動と加工精度の関係を専門的に解説し、後半で日野精機の取り組みを紹介します。
【切削トルクとは】
切削トルクとは、工具が素材を削る際に発生する回転方向の抵抗力のことです。
トルク(T)は、切削抵抗(F)と作用半径(r)の積で求められます(T=F×r)。この力が大きいほど、工具や主軸には高い負荷がかかり、剛性の不足している機械ではわずかな変形やたわみが生じます。
特に横型マシニングセンタやNC旋盤では、加工径や送り量、切削速度の設定がトルクに大きく影響します。過大な切削トルクは、工具の欠損や寸法の狂いを引き起こす原因になります。
【切削抵抗を左右する要因】
切削抵抗は、素材の硬度や工具形状、切削条件によって大きく変化します。
代表的な影響因子を整理すると、次のようになります。
・素材硬度:硬い材料ほど切削抵抗が増加し、トルクも上昇する
・工具摩耗:刃先の摩耗により切削角が変化し、抵抗が不安定になる
・切削速度:高すぎる速度は発熱を招き、低すぎると切りくずの排出が悪化する
・送り量:送りを増やすと抵抗は大きくなるが、生産性とのバランスが必要
・クーラント:潤滑性と冷却性を確保することで摩擦抵抗を低減できる
これらの要素を最適化することで、加工時のトルク変動を抑え、寸法安定性を確保できます。
【振動の発生メカニズム】
加工中に発生する振動の多くは、切削抵抗の周期的な変化による現象です。これは工具とワークの間で微小な共振が起きることが原因で、加工面の波打ちや寸法誤差、工具寿命の低下につながります。
振動の発生は、機械構造、工具剛性、治具固定力、回転数などの条件が複雑に関与します。
特に剛性の低い治具や長尺工具を使用する場合、微小な力でも共振が起きやすくなります。回転数(主軸回転)をわずかに変えるだけでも、共振周波数を外して安定化できる場合があります。このように、振動は「発生させない設計」と「抑える加工条件」の両面から制御することが大切です。
【剛性と治具設計の重要性】
剛性とは、力を加えたときにどれだけ変形しにくいかを表す性質です。工作機械の剛性が高いほど、切削抵抗によるたわみが小さくなり、安定した加工が可能になります。
また、ワークを支える治具の設計も加工精度を大きく左右します。クランプ位置や支点配置が適切でないと、加工中にワークが微小に動き、寸法のズレや表面粗さの悪化を招くことがあります。
日野精機では、自社内で治具を設計・製作しており、部品形状や切削方向に合わせて固定構造を最適化しています。これにより、治具変形やクランプの偏りを抑え、安定した寸法精度を確保しています。
【トルク・振動を抑える加工条件の考え方】
加工安定性を高めるには、トルクや振動を抑えるための条件設定ポイントは、工具と機械、ワークの三者のバランスをとることです。
・切削速度を適正範囲に設定する
・送り量を安定化させ、断続切削を避ける
・工具突出し量を短くして、剛性を確保する
・刃数や工具径を最適化し、切削負荷を分散させる
・クランプ力を均等にかけ、ワークの変形を防ぐ
これらの条件を組み合わせることで、振動やトルク変動を最小限に抑え、表面品質と寸法精度の両立が可能になります。
【加工精度を支える恒温環境】
トルクや振動と並んで、精度を安定化させるために欠かせないのが温度管理です。切削中の熱は工具・ワーク・機械に蓄積し、わずかな膨張を引き起こします。金属は温度1℃の変化で数μm膨張するため、加工環境の温度を一定に保つことで、熱による誤差を抑制できます。
恒温環境(23±1℃)下での加工では、機械やワークの温度変化が少なく、寸法のばらつきを防ぐことができます。特に長時間稼働する横型マシニングセンタでは、環境制御が安定加工に直結します。
【日野精機の取り組み】
日野精機では、横型マシニングセンタ36台、縦型マシニングセンタ12台、NC旋盤24台を保有し、部品形状や切削負荷に応じて最適な設備を選定しています。
高剛性の横型マシニングセンタは、切削トルクや振動の影響を抑え、重量物や高精度部品の安定加工を実現しています。NC旋盤では、芯振れや固定剛性の管理を徹底し、円筒形状の部品でも寸法の安定化を図っています。
さらに、恒温環境下で加工と測定を行うことで、熱変化による誤差を最小限に抑制。自社設計の治具によって固定剛性を確保し、加工中の変形や振動を防止しています。CAD/CAMによる加工プログラム作成と条件最適化を組み合わせることで、工具負荷を均等化し、安定した切削状態を維持しています。
【まとめ】
加工中のわずかな力の変化や振動が、最終的な寸法精度や表面品質に直結します。
そのため、加工力・剛性・温度のすべてを制御することが、高精度加工の基本です。
日野精機では、恒温環境、高剛性設備、自社治具設計を組み合わせ、トルクや振動の影響を最小化する生産体制を構築しています。見えない力を管理することが、安定したものづくりの鍵となります。
【お問い合わせ先】
日野精機株式会社
本社工場:東京都日野市日野台1-17-3
新田工場:群馬県太田市新田下田中町836-1
TEL:042-582-1861
FAX:042-584-1655
URL:https://hinoseiki.co.jp
| 会社名 |
日野精機 株式会社 (ひのせいき) |
エミダス会員番号 | 102576 |
|---|---|---|---|
| 国 | 日本 | 住所 |
日本 東京都 日野市 |
| 電話番号 | 042-582-1862 | FAX番号 | 042-584-1655 |
| 資本金 | 5,300 万円 | 年間売上高 | |
| 社員数 | 126人 | 担当者 | 池田 智信 |
| 産業分類 | 重電関係 / 産業用機械 / 輸送機器 | ||
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