「あれ、アッコさん、めずらしいですね、ゲームだなんて」
昼休み、自分の席でさっきまで食事をとっていた菅沼が(おそらく、また昌代が用意してくれたサラダもいっしょにご機嫌で頬張って)腹ごなしのつもりなのか、うろうろと事務所のなかを歩いていた。そうして、ひょいと明希子のパソコンのモニターをのぞいたのだった。
「ちがいますよ、工場長」
湯飲み茶碗を置くと藤見が立ち上がって言った。そうして、菅沼の隣にきてならんだ。
「アッコさんはウチのホームページをつくっているんですよ」
菅沼が相変わらず藤見の存在を無視して、
「あ、このフライスやってるの阿部だよ。えーと、こっちのエンドミル交換してるのがキクだ。しまりのないツラしてやがらぁ」
明希子の背後から画面を眺めながら空々しいことを言っている。
――まったくいい歳して、いつまで意地張ってるつもりなのよ。
「わたしがデジカメで撮ったの」
明希子はキーボードとマウスを操作する手を止めずに言った。
「代理店にいたころは、ホームページの見せ方やコンセプトについてさんざんクライアントに提案してきたけど、実作業は社内のウェブデザイン部が行うか外注に出してたから自分でつくるのははじめてなの」
声がすこしイラついていたかもしれない。
「花丘製作所のホームページですか?」
昌代と泰子もやってきて画面をのぞき込む。
「泰子さんが世話をしてくれてる花壇の写真を載せてもいいわね」
明希子が言うと、
「『泰子さんの園芸日記』なんてどうです?」
向こうで漫画雑誌を眺めていた小川の声が加わり、女性2人が揺れるように笑った。
「だけど、ホームページをつくると、どんないいことがあるんですか?」
菅沼だった。
思わず明希子の手が止まり、ため息をついた。
「もちろん注文をとるためよ。花丘製作所の技術力を全国にアピールするの。わたしや小川君が足を運んで営業できるところなんて高が知れてるでしょ。ホームページで情報を流すことで、未知の客先と出会うことができるかもしれないじゃない」
「ホームページで仕事をねえ……」
菅沼の疑問まじりの言い方に、明希子はまたイラっとした。
「だったらなにをすればいいの? こんなことして効果があるんだろうか、むだじゃないだろうか――そんなふうに思って足踏みしてるくらいなら、とにかくやってみる。それしかないじゃない。なにもしないで、ただ待っていたって、仕事は舞い込んでこないのよ」
ふたたび手を動かしはじめようとして明希子は、
「ああ、そう、こんどISOの登録申請をしようと思うの」
「SOSですか?」
と菅沼。
――たしかに救援求むだわ。
明希子は絶望的な気分になった。