誠一が召集した臨時役員会とは、きわめて家族会議に近いものだった。
花丘製作所の代表取締役である誠一、取締役の静江、菅沼、営業部長の高柳、それに監査役として経理士の落合が出席した。
明希子も、もの心がつかないうちから花丘製作所の株主である。こんなのは、中小製造業ではざらにあることだった。ちなみに、明希子の持ち株は、誠一、静江につづいて三番めに多い十五パーセントである。
場所は花丘製作所の社長室。久し振りに自分の席についた誠一が、無骨な手で、なかば無意識に古い木の執務机の表面を愛おしげに撫でていた。
残る面々は、やはりこれも古い、革張りの応接セットに腰を下していた。
内輪の集まりだったが、明希子は緊張してすわっていた。誠一は認めてくれたが、ほかのひとたちは、製造業のことをなにも知らない自分を、ほんとうに受け入れてくれるのだろうか?
「お、お、お集まりいた……だいたのは、わ、ワタクシ、花……丘誠一は、しゃ、しゃ、社長職を、じ、辞そうと、け、け、けつ、けつ、決意したから、で・あります」
あらかじめ根まわしがすんでいるらしく、誠一の言葉に動揺を示す者はいなかった。
「花・丘、せ、製作所の次の社長には、花丘、あ、明希子を、すい、すい、すーい、すい、推薦、し、します」
誠一の言葉のあとで司会役の落合が、
「それでは、取締役のみなさんの賛否をうかがいます」
と一同に向かって問いかけた。
「賛成!」
と静江が右手を高々とあげ、満面の笑みで元気よく言った。
「賛成です」
と菅沼が、やはり微笑んで言った。
「反対だ」
その場にいる全員の視線が、声の主に注がれた。
高柳は誰を見るでもなく、その顔は真っ直ぐを向いていた。
明希子は間近で隣にいる高柳の横顔を見ていた。四十代後半くらいだろうか。肌が浅黒く、オールバックに撫でつけた髪には、年齢の割りに白いものがかなり多く混じっている。半白といった感じだった。
「花丘製作所の舵取りを、経験のない素人に任せることに賛成なんてできるはずがないでしょう。ちがいますか?」
誰もなにも言わなかった。
誠一が口を開きかけ、それでも言葉を飲み込むようにして黙っていた。
落合が一堂の顔を順番にゆっくりと見まわした。そうして言った。