花丘製作所を存続したい! しかし、そうした感情だけで、会社を救うことはできなかった。明希子にはなんの方策もないのだ。
――どうしよう?
できることといったら、自分よりも経験と業績のある人物に会って話を聞いてもらい、相手の話を聞くことくらいだった。なにもできない自分が歯がゆかった。
ともかく仕方がない、伝があればすぐに会いに行くことにした。
「助けたい気持ちがある」
花丘家とは遠縁にあたる倉田という飲食店グループの経営者がそう言ってくれた。
「ほんとうですか!?」
明希子は色めいた。
倉田が厳かな面持ちでうなずく。
――よしきたぁ!
倉田には起業時、誠一が資金面も含めてなにかと援助していた。
――情けはひとのためならず、とはよく言ったものだ。しかし、こういう言葉を持ち出すのもオヤジか?
「助けたい気持ちはたしかにある」
と倉田がふたたび言ってから、
「しかし、あいにく会社が上場を控えていてね。いや、残念だ」
明希子は開いた口がふさがらなかった。
「栄枯盛衰は世の常だよ。うちだって、いつお宅のようになるともかぎらないからね。同情するよ。いや、ほんとうに残念だ」
――なにが残念だ! それは、援助できなくて残念ということ!? それともお宅が倒産することになって残念ということなの!?
だが、すぐに明希子はそうした考えを打ち消した。
みじめだった。ひとに頼ることしかできない自分がひたすらみじめだった。
友人の父親の友人のそのまた友人(もはやその相手との関連などどうでもよかった)の駐車場コンサルタント会社の社長には、「私が経営をみよう」と提案された。だが、花丘製作所にいちども足を運んでいないうちから運営についてさまざまな条件をつけられた。もちろん、それをそのまま鵜呑みにすることなどできない。会社を相手のいいようにされてしまうかもしれないのだ。
つくづく自分の無力さを痛感させられるばかりのそんなある日、誠一の主治医の松尾から呼び出しがあった。
静江とならんで明希子は病院のカンファレンスルームで松尾と向き合った。
「そろそろ花丘さん、リハビリテーションセンターへ通われたらいかがでしょう?」
そう松尾が提案した。
誠一はすでに一般病棟に移り、リハビリは院内でも行っていた。
思わぬ助言に、静江も明希子もどうこたえていいのかわからなかった。
「リハビリ専門の病院で、本格的に言葉の訓練をされては、という提案です。センターにはご自宅から通っていただきます」
「退院できるということですか?」
静江と明希子は声をそろえて言っていた。
「そうなりますね」
二人は手を取り合って喜んだ。