「ドッシーン」
「痛っ、痛いよ! なにするんだよ!?」
俺はあまりの痛さに気絶しそうになった。なにが起こったのか見当もつかず、ただただ自分の身体がどうなってしまったのか心配だった。
「痛い、痛いって、さっきから、おまえ、うるせえよ」
どこかで声がした。
「だれ、だれなの? どこ、どこにいるの?」
って、うろたえていると、
「ここだよ、ここ。おまえの真上だよ」
「キミはだれなの? どうしてそこにいるの? そこでなにしているの?」
俺は思いつく限りの疑問をぶつけた。
「おまえ、なにも知らないんだな。おまえが下型でオレが上型ってわけだ。通常、金型っていうのは、完成するとおまえら下型にすべての部品の魂が吸収されるんだが、俺の意識が残っているということは、小川のヤツ、しくじりやがったな」
「へえ、あなたが上型くんで、俺は下型っていうんだ。はじめて知った」
そう納得している俺に、上型くんは畳み掛けるようにこうも言った。
「気軽に俺のことを〝くん〟なんて呼ぶな。おまえら下型はいつもそうだ。自分だけが生まれついての金型のように思っていやがる。そうやって俺こそが金型みたいな顔をして、いっつも俺たちの魂を吸収していきやがる。オレたちほかの金型部品からしてみれば悪魔みたいな奴だよ。だいたい今度だって、おまえがちゃんと小川をリードしてやればこんなことにはならなかったんだ」
俺は上型くんに返す言葉が見つからなかった。
そのときだ、横からまた誰かが話しかけてきた。
「上型さん、意地悪もそのくらいにしておきなよ。金型がうまくいかなかったのは、あんたにも責任がないわけじゃないんだよ。それを下型さんのヒトのよさにつけ込んでイヤな奴だね、あんたも。下型さんもしっかりしなきゃ。これからアタイたちは、あんたのなかで生きつづけなきゃならないんだから、ちゃんと頼んだよ」
びっくりして俺は、
「あなたはだれなの?」
ってきいた。
「アタイかい、アタイはただの柱だよ。アタイはもう疲れたから寝るからさ、あとはうまくおやり」
そういうと柱さんは、本当に寝てしまったようだった。
EMIDAS magazine Vol.10 2006 掲載
※ この作品はフィクションであり、登場する人物、機関、団体等は、実在のものとは関係ありません