第5話 俺は金型(3)

「ドッシーン」

「痛っ、痛いよ! なにするんだよ!?」

俺はあまりの痛さに気絶しそうになった。なにが起こったのか見当もつかず、ただただ自分の身体がどうなってしまったのか心配だった。

「痛い、痛いって、さっきから、おまえ、うるせえよ」

どこかで声がした。

「だれ、だれなの? どこ、どこにいるの?」

って、うろたえていると、

「ここだよ、ここ。おまえの真上だよ」

「キミはだれなの? どうしてそこにいるの? そこでなにしているの?」

俺は思いつく限りの疑問をぶつけた。

「おまえ、なにも知らないんだな。おまえが下型でオレが上型ってわけだ。通常、金型っていうのは、完成するとおまえら下型にすべての部品の魂が吸収されるんだが、俺の意識が残っているということは、小川のヤツ、しくじりやがったな」

「へえ、あなたが上型くんで、俺は下型っていうんだ。はじめて知った」

そう納得している俺に、上型くんは畳み掛けるようにこうも言った。

「気軽に俺のことを〝くん〟なんて呼ぶな。おまえら下型はいつもそうだ。自分だけが生まれついての金型のように思っていやがる。そうやって俺こそが金型みたいな顔をして、いっつも俺たちの魂を吸収していきやがる。オレたちほかの金型部品からしてみれば悪魔みたいな奴だよ。だいたい今度だって、おまえがちゃんと小川をリードしてやればこんなことにはならなかったんだ」

俺は上型くんに返す言葉が見つからなかった。

そのときだ、横からまた誰かが話しかけてきた。

「上型さん、意地悪もそのくらいにしておきなよ。金型がうまくいかなかったのは、あんたにも責任がないわけじゃないんだよ。それを下型さんのヒトのよさにつけ込んでイヤな奴だね、あんたも。下型さんもしっかりしなきゃ。これからアタイたちは、あんたのなかで生きつづけなきゃならないんだから、ちゃんと頼んだよ」

びっくりして俺は、

「あなたはだれなの?」

ってきいた。

「アタイかい、アタイはただの柱だよ。アタイはもう疲れたから寝るからさ、あとはうまくおやり」

そういうと柱さんは、本当に寝てしまったようだった。

EMIDAS magazine Vol.10 2006 掲載

※ この作品はフィクションであり、登場する人物、機関、団体等は、実在のものとは関係ありません

 

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