第21話 ものづくりは愛だ(9)

「ヒューン、ヒューン、ヒューーーーーーーーーーーーーーーーン」

「おおおーーーー、速い。すっげえ加速だぞ、内田君」

「社長、当たり前ですよ。なんたって、最大トルク400N・mのモーターを4輪すべてに積んでるんですから。

全部で1600N・m――世界最高トルクですね。ちなみに最高出力は200KW×4なんで800KWです。

こちらは残念ながらブガッティ・ヴェイロンには劣りますけど、モンスターマシンであることは間違いなしです」

「なんか、ニュートンメーターだとかキロワットで言われても、俺たち世代にはピンとこないな。その数値はそんなにすごいのか?」

「そんなことも知らないで自動車メーカーの社長やってたんですか? トルクは社長たちジジイ世代ではkgmで呼んでましたけど、いまはN・mなんです。ジジイ世代で言えば、最大トルク163kgmですよ。最高出力は1087PSです」

「すごい数値だな。まるでレーシングカーじゃないか。けど、そんな性能のクルマを市販できるのか?」

「大丈夫でしょ。さっきも言いましたけど、世界最速のブガッティ・ヴェイロンの最高出力が1200PS、最大トルク153kgmですから。

ちなみにヴェイロンの0→100km/hは2.5秒ですが、この634は2.4秒です。この加速力は文句なしに世界一です。最高速はヴェイロンの435km/hには遙かに及ばず320km/hです。

日産GTRを少しだけ上回っています。でもEVの醍醐味は、その加速と応答性ですから、アクセル踏んで、吸気して、着火して、燃焼して、なんてまどろっこしいことなく、アクセル踏んでヒューンですから」

「なるほど、それにしても恐ろしい乗り物をつくったもんだ。さっき、4輪にそれぞれモーターが付いてると言ってたけど、インホイールモーターって奴か?それだったらオレも聞いたことあるぞ」

「いや、残念ながらインホイールモーターじゃないです。重量バランスを取りたかったのとモーターサイズをあまり大きくできないので4輪に配分しましたが、モーターはホイールの中というよりホイールの横ですね。

NTNが開発したのと同じようなもんです。ヴェイロン級の特性を出そうと思ったらホイールの中に入りきらなくなっちゃっただけなんですけど。でも、この634のボディサイズだったらインホイールにそんなにこだわらなくてもいいんじゃないですかね。

実際に以前のV12エンジンタイプよりスペースに余裕がありますもん」

「その点も大丈夫です。なにしろ、テスラロードスターをも凌ぐ56kwhも電池積んでますから。計算だと恐らく330kmくらいかなと。今後、制御をもう少し詰めれば350kmも夢じゃないです。

そのかわりと言ってはなんなんですが、車体重量は1900kgとヴェイロンより少し重くなってしまいました。なにしろリチウム電池だけで500kg積んでますから」

EMIDAS magazine Vol.26 2011 掲載

※ この作品はフィクションであり、登場する人物、機関、団体等は、実在のものとは関係ありません

 

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