「というわけで、私からのプレゼンを終わります。後は皆さんで判断してください」
内田は、自信満々なふてぶてしいまでの態度で、自分の走行システムのプレゼンテーションを終えると、後は知らんとでも言いたそうな顔をしていた。
「社長、いかがですか」
専務の工藤が、心配そうな顔で内原の顔を覗き込んだ。
「う~ん、内田君。このシステムは安全上問題ないのか?プリウスみたいなことになる心配はないのか?」
内原はどう判断していいか迷った素振りを見せながら、内田に質問をした。
「内原社長、その点は問題ないです。ブレーキ周りに関しては、踏み込んだときのフィーリングを残したいので、従来のシステムを踏襲しています」
ますます、自信満々に内田は答えた。
「従来のシステムって、負圧はどうすんだよ。お前のシステムには、負圧を生み出す内燃機関がないんだろう?」
会議に参加している研究者達から、そうだ、どうするんだと非難めいた声があがった。
「負圧でも、何でも、電気でつくれないものはないんですよ。内燃機関しか認めていないあんた方には、理解できないかも知れないが、今のクルマのシステムをすべて電気に置き換えるのは、そんなに難しい話じゃないんだ」
「よし、決めた。これでいこう。内田君、開発はどこまで進んでいる?」
内原は、意を決した表情をしていた。決める前は、さんざん悩むが、決めた後の速さは最大の長所だった。
「いつでも実車に載せられますよ。準備していましたから。幸いにして、ムサシの全開発データはもらっていたので」
「おまえ、いつのまに」
いまだ納得いかない幹部研究者達の不満を無視して、内田は立ち上がった。
「社長、決裁、ありがとうございます。これも今まで社長決裁で潤沢に予算を使わせてもらったからできたことです。でもこれからは、内燃機関じゃないクルマがあってもおかしくないと思います。フェラーリより阪神電車のジェットカーのほうが速いと言う人もいるくらいですから。ムサシにスーパーモーターを載せて、世界最速のEVを世に出しましょう」
「ところで、バッテリーはどこから調達するんだ」
工藤が専務らしからぬ質問をした。
「NECだ」
今度は内原が自信に満ち溢れた声で答えた。
「NECは日産と組んでいるんじゃないんですか?エヌシーにも供給できるんですか?」
心配そうに尋ねる工藤を制して自信満々の内原は答えた。
「俺が大丈夫といえば絶対だ。バッテリーはNECから供給を受ける。実はもう、NECから内諾はもらっている。後は生産計画をまとめて正式契約するだけだ」
EMIDAS magazine Vol.25 2010 掲載
※ この作品はフィクションであり、登場する人物、機関、団体等は、実在のものとは関係ありません