第1話 出会い(1)

春のやわらかい日差しで俺は目覚めた。どうして目が覚めちまうんだ。このまま眠ったままでも、ちぃ~っとも構わないのに。目が覚めちまったおかげで、また今日も退屈な時間を過ごさなくてはならない。いっそのこと死んじまいたいって気持ちが湧き出てくる。

そんなとき、最近知り合いになったスズメの女の子が俺に話しかけてくる。

「今日もいいお天気よ。元気出していこうよ。せっかくのお天気だもの、だらだらしていたらもったいないわ。さあ、今日も張り切って遊ぶわよ、歌うわよ」

俺にだらだらする以外に何をしろっていうのか。だいたいもう何日経ったんだ。来る日も来る日も、外に放置されたままだ。たとえ、雨が降ろうが、カンカン照りになろうが、ずっと外じゃないか。だらだらしていたらもったいないっていう、あの子にしても、いつも平気で俺にフンをかけて、レディの恥じらいというものを知らんのだろうか。今度、機会があったらレディとは、という話をしてやらにゃあいかん。そう思っているところへ偉そうにしているおやじたちがやってきた。

「こいつが今度のプロジェクトの対象になっている奴ですよ、社長」

「ほほう~、まだ材料のままなのか。どうなんだ、小川君の様子は? うまくいっているのかね?」

「CAD設計が終わって、今はCAE解析の実習をしているところです。随分と張り切っているようですが、見ていてなんだか可愛そうになりますよ。このままやらせていていい のでしょうか?」

「君も甘いなあ。そんなことだから、いつまで経っても専務のままなんだよ。経営にはメリハリをつけなきゃいかん。いいか、我がエヌシー自動車は、ものづくりを大切にすることを売りにしているんだぞ。その会社がスーパーエンジニアを育てる。そのスーパーエンジニアが作り上げたクルマをこれぞメイドインジャパンとして世界中に売り込む。そのためには、小川君には悪いが捨石になってもらわないと。おっと言葉が過ぎたな、捨石じゃない、我がエヌシー自動車の技術者の頂点。クロスファンクションエンジニアだったな」

EMIDAS magazine Vol.6 2005 掲載

※ この作品はフィクションであり、登場する人物、機関、団体等は、実在のものとは関係ありません

 

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