【第2回】「環境側面・著しい環境側面」って日本語か?

著しい環境側面がイメージ出来るとISO14001は簡単!!

ISO14001・EMS活動の出発点

「環境側面を特定すること」および「著しい環境側面を決定すること」は、ISO 14001環境マネジメントシステム(EMS)の規格要求事項の最も基本的な要求事項ですが、どこまで特定する必要があるのか? どのような方法で特定するのか?など、規格要求事項の中で最初に直面する、しかも最も厄介な部分です。

規格の定義で環境側面とは「環境と相互に作用する可能性のある組織の活動、または、製品またはサービスの要素」と規定されており、参考として「著しい環境側面は著しい環境影響を与えるか与える可能性がある」とあります。また環境影響は、「有害か有益かを問わず、全体的にまたは部分的に組織の環境側面から生じる、環境に対するあらゆる変化」と表現されています。なにやら分かったような分からないような不思議な説明です。そのためにEMSの構築およびISO 14001認証取得は難しいと考えられすぎる傾向にあります。

今回は環境側面はともかく、著しい環境側面とはどんなものであるのかという疑問を解く鍵をご紹介いたします。

JAB MS305-2009:(「マネジメントシステム認証機関に対する認定の基準」についての指針)として公表されている文書には以下の記述があります。

環境側面の複雑さのカテゴリー、この文書で特定された規定は、審査工数に根本的に影響を及ぼす組織の環境側面の性質及び重要度に関する5つの主要な複雑さのカテゴリーに基づいている。これらのカテゴリーは次のとおり

  • 著しい性質及び重要度の環境側面をもっている(通常、幾つかの環境側面において著しい影響がある製造又は加工業務を行う組織)
  • 中程度の性質及び重要度の環境側面をもっている(通常、何らかの環境側面において著しい影響がある製造業務を行う組織)
  • 低い程度の性質及び重要度の環境側面をもっている(通常、著しい側面がほとんどない組み立て業務を行う組織)
  • 限定 限られた程度の性質及び重要度の環境側面をもっている(通常、事務所機能のみの組織)
  • 特別 審査計画作成段階において追加及び独自の考察を必要とするもの。

いよいよ著しい環境側面がイメージできる!!

上記を要約すると「環境側面の複雑さが(中)程度では、通常何らかの環境側面において著しい影響がある製造業務態様の組織、(低)程度では、通常著しい側面がほとんどない組立業務態様の組織」と記述されています。

中程度に分類される組織とは「プリント回路基板生産」「金属合成加工製品の表面処理」等で、低度に分類される組織とは「ゴムおよびプラスティック成形」「電気・電子部品組立て」「熱成形・冷間成形・金属合成加工」「卸売業および小売業」等が例示されています。

このような例示から規格制定者側では、「(中)の組織:プリント基板製造、メッキ業等では通常いくつかの著しい環境側面が存在する」、「(低)の組織:電気製品組立て、ハーネス製造等では通常著しい環境側面はほとんどない」と想定していると考えられます。ちなみに、「高い」には「石油精製、排水および下水処理、石炭による発電」などが属しています。

そう考えると、例えばエッチングやメッキ作業時に使用される薬液類の使用時・処理時の異常事態や、製品組立て後に発生する産業廃棄物の処理時の問題等が一般的に「著しい環境影響を持ち得る側面」と考えられているのだな、と思い浮かびます。

ただしこれらの「著しい環境側面」は、個々の組織の「周囲の環境」「ブランドイメージ:企業の価値」が違いますので、最終的な決定は組織自身に委ねられることは言うまでもありません。 上にイメージされるような「環境に大きな影響を与える可能性のある事象に対して、その影響がなくなるか小さくなるように未然に対策を講じましょう」というのがISO 14001の狙いです。

著しい環境側面をイメージ出来たら「規格が著しい環境側面をどうしたいのか?」が判りやすい。

このような「著しい環境側面=環境に大きな影響を与える可能性のある事故を含む事象」を想定して規格を読んでいくと、規格の4.3.3項(環境目的目標改善及び実施計画)の読み取りにくい部分の「環境目標を設定する際に『著しい環境側面、技術上・財務上の選択肢等』を考慮すること」とは、例えば「(事故の恐れのある老朽化した)処理設備からの未処理排水の漏洩」などが「著しい環境側面」として特定された場合「(影響を回避するために)設備改修の必要性」を検討するために、「技術上の選択肢:現在の設備の性能・同等ないしはそれ以上の能力を持つ代替設備、財務上の選択肢:価格・ランニングコスト等、運用状の選択肢:設置場所の確保の有無」などを検討してから「目標に設定して設備改善するか?」或いは「(設備はそのままで事故を起こさないための)管理基準を決定して運用する。」のいずれかを選択することを要求していることが理解でき、当然のことを要求されていると思い当たります。

また、4.4.3項(コミュニケーション)「著しい環境側面について外部コミュニケーションを行うかどうかを決定してその決定を文書化すること」の要求事項の部分は、「環境の媒体としての水、大気、土壌(土地の権利ではない)は誰の所有物でもなく一時的に利用しているだけであり、環境に大きな影響を与える可能性のある使用者は社会に対する説明責任(アカウンタビリティー)がある」との考えが一般的になりつつある状況を考えると「(薬液・油類・未処理排水などの漏洩などの)環境事故の可能性を事前に利害関係者に連絡することにより被害を最小限に抑えるための活動を実施することにより、万一の場合の「ブランドイメージダウンを最小限にするためのツール」としての利用法を選択肢に入れることを提言しています。

ちなみにこの考え方から、環境報告書、CSR報告書、サステナビリティーレポートと言った形を利用した社会へのコミュニケーションが日本では浸透しつつあります。

「環境側面」:あらたな環境活動を計画・実施するために。

前に戻りますが、これらの著しい環境側面を決定するためには、候補となる「環境側面を特定する」必要があります。特定する方法は、ISO14004というISO 14001の指針を記述した規格に詳述されていますので参照くださるよう(また利用可能な部分だけを利用する)お願いいたします。

特定された多くの有用な環境側面から著しい環境側面を特定する方法として、ISO 14004規格は、リスク管理のために使用される「FMEAあるいはフィーマ」と呼ばれる手法を環境用の言葉に置き換えて簡略化したものを採用するよう推奨しています。その意図に沿って特定された「著しい環境側面」に対応して、管理を計画・実施・維持していくと「著しいと判定される」段階から「著しいとは判定されない=大きな影響がない」環境側面になっていきます。

とは言うもののISO 14001の活動は改善活動が継続されることを要求していますから、一般的に考えられる「著しい環境側面」が「著しいという状態ではなくなって」も何らかの環境側面の改善を継続していくことが要求されます。そのために一度決定した「著しい環境側面」をいつまでも「著しい環境側面」として抱えていると、常に同じテーマの改善活動を続けていかなくてはならないことになり、ISO 14001の活動が停滞してしまうことが懸念されます。この状況が日本のISO14001活動に広く見られる所謂「環境ISOは紙・ゴミ・電気」と自嘲的な言い方をされる所以です。

このような状況に陥らないためには、認定取得の際に決定されたいわゆる「著しい環境側面」の管理を卒業し、前述した14004に記述される「環境側面の特定の手順」(この段階では改善のためのテーマ候補の収集手法)の採用と工夫が必要になってきます。そして、環境側面の特定・評価方法の改善に併せて、EMSを柔軟に改善・運用する精神が、更なるEMSのステップアップをもたらすキーポイントとなります。

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