第20回 株式会社 ハーマン精機

( 初出:日刊工業新聞社「プレス技術」 第38巻 第11号 (2000年11月号) )

執筆者 内原康雄

IT(infomation technology )の話題が毎日のように新聞や雑誌などで取り上げられ、製造業においてもITをどう利用するか?というステージに来たようである。
ハーマン精機は、大阪ガスグループの社内ベンチャーとして、昭和60(1985)年に設立された板金工場である。現在では親会社の売上げ比率は25%程度になり、多品種少量生産に応える板金工場として顧客からの支持を受けている。
主要製品は多岐に渡り、ガス機器をはじめ、写真現像機、貨幣処理機、理美容機器、医療機器、環境・福祉機器などさまざまな業種に挑戦している。受注体制としては、受託開発・設計、板金加工、組立のトータル受注が確立されており、電気・電子分野の設計、購買力を生かして装置を丸ごと受注し、数多くの実績をあげている。当然のことながら、メーカーからの図面による賃加工事業も行っている。営業活動もいち早くインターネットでIT化したことで、情報量も増加しさらにグローバルニッチビジネスへと展開を模索中である。

ビジョンと設立の経緯

進藤京二郎社長 ハーマン精機の設立は、歴史のある板金・プレス業界の中において比較的新しい。現社長の進藤京二郎氏が社内ベンチャーとして立ち上げたのは15年前である。進藤氏は大阪ガスグループ時代、ガス器具の購買部資材調達部に所属していた。
「購買部にいた時のノウハウが現在のハーマン精機の基本となっています。板金、プレスのことはもちろん、鍛造、鋳造、ゴム、印刷などさまざまなジャンルのコーディネートができる板金屋というのがハーマン精機のメインコンセプトです」設立の経緯については、
「タレパンという機械を初めて見て、これはおもしろい商売ができるんではないか?と閃いたのがきっかけです」と説明する。
「そこから37ページに及ぶ企画書を持って上司を説得しました」と進藤氏。
その企画書が認められ、社内ベンチャーとして当初は親会社からの試作・プレス金型を事業の中心に据えて、スタートしたのである。最初はは賃加工が中心であったという。以来、購買時代の苦しさや難しさをばねにして、ハーマン精機は成長を遂げていった。
そして、時代の流れとともに、試作・設計・開発部門を設けて、設計から完成品までトータルサプライを目指すメーカーへと成長しているのである。
進藤氏は、「金型や板金部品というのは、材料率が低いんです。ですからミスをなくして、設計から付加価値を付けていけば儲かります。多品種少量製品、特に300個以内の製品に注力しています。一個でも構いません。今後はもっとすき間(ニッチ市場)の製品に注力して行く予定です」と語る。

社内生産管理システム

ハーマン精機の生産システムは、すべてコンピューターによるオンライン生産管理システムを通じて行われている。このシステムは、すべて内製(1,000 本以上のプログラム)である。システムについて進藤社長は、
「一品一様の製品をERP のシステムに載せるのには、長い年月と苦労がありました。現在では各部門別にバーコードを利用し、進捗状況までリアルタイムに把握できるシステムになりました。レーザー加工機、タレットパンチプレス、ベンダーなど各機械工程ごとにバーコードで進行を把握するのです」と語る。
製造現場にも随所にパソコンが配置され、機械別の工程管理を事務所で一括管理できるシステムができあがっている。このシステムを通じて、ハーマン精機の多種多様な製品群が生み出されるわけである。

生産管理システムのチャート図

インターネットに対する取り組み

ハーマン精機がホームページを開設したのは、98年3月のことである。それ以降、着々と受注件数を増やしている。99年6月にエヌシーネットワークに登録してからは、(受注のための)アクセス件数は急増しており、2000年5月にはNHK放送のIT番組で取り上げられた。
インターネットによる取り組みについて、進藤社長は「インターネットやITは、製造業にとってものすごい有効なツールです。ですからこれを利用しない手はありません。当社ではインターネットに全社的に取り組んでいます」と語る。
ハーマン精機におけるインターネットの利用を要約すると、以下の5点に集約される。

e- ビジネスを展開するには、社内の改革が必要だと進藤社長は言い切る。
「まず、ラインの作業者以外の社員には全員e-mailが必要です。全社の指示系統がメールを通じて行われるようにしなければなりません」
そのあとで受注のための仕組みを構築するのである。顧客がアクセスしてきたら、いかに早く対応できるかが勝負だと言い切る。
「スピードを持ってすぐに接客に応じるように心がけています。メールで打診(受注や発注への)があった時にはすぐに相手に応えるようにしています」
進藤氏の話を聞いていると、ITを利用することで商売が繁盛しているわけでは決してない。商売の基本に忠実だということが、お話を伺っての印象である。IT技術やSCM (Supply chain management )など、コンピューター技術が発達すればするほど、商売にとって必要なのはヒューマンインターフェイスなのではないだろうか?ハーマン精機を訪問して、そんな印象を受けた。
今後ますます多様化する製造業界にとっても、今後のハーマン精機の挑戦は注目を集めることになろう。

システムの運用範囲

会社概要
株式会社 ハーマン精機
代表者代表取締役社長 進藤 京二郎
資本金5,000 万円(全額 (株)ハーマン出資)
所在地 〒578-0941 東大阪市岩田町6-2-35 
TEL(0729)64-5220 FAX(0729)64-0136

URL:http://www.harman.co.jp/seiki/
従業員 65名
業務内容精密板金加工(試作品・多品種少ロット),切削品加工(旋盤加工),プレス部品加工(QDC 型,レーザ積層金型ほか),ダイカスト品(鋳造・フライス加工),多品種少ロットユニット組立(ガス機器・写真現像機・真空抽出装置など),受託設計・試作・量産まで一貫対応(各種機器・装置)など

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