第10回 山陽プレス工業株式会社

( 初出:日刊工業新聞社「プレス技術」第37巻 第3号(1999年3月号))

執筆者 内原康雄

今回の「デジタル・ファクトリー最前線」では、東京北区に本社工場、茨城県稲敷郡阿見町に量産工場を構える山陽プレス工業を紹介する。社員数30名規模のプレス工場ではあるが、1997年4月にISO9001の認定取得工場となった。
ここではISO9001の取得までの苦労話を含め、山陽プレス工業の生産方式について述べることにする。
山陽プレス工業はオーディオ機器部品、光学機器部品を主力とし(写真1)、金型設計、製作、部品加工を手がけている。特徴としては順送型、トランスファーを主体とした自動加工に力を入れている。特に切削加工からプレス加工への工法転換などの特殊技術には定評がある(写真2)

写真1 山陽プレス工業の製品群

写真2 プレスライン

たとえば、弱電メーカー向けのヘッドホンパネルではプラスチック部品からアルミニウム合金への素材変更が増えてきている。アルミ部品であれば軽量化にも対応できるが、その際、メーカーの部品設計者に対して、アドバイザー的役割を果たすのである。
山陽プレス工業の陣頭指揮をとるのは檜垣満社長だ。檜垣社長は初代社長である檜垣治夫・現会長から平成9年5月にバトンタッチし、社長に就任した。

ISO9001取得への道程

ISO9001の取得へのきっかけは何ですか?と檜垣社長にお聞きしたところ、意外な答えが返ってきた「弊社は設備的にも、技術的にも平凡な部品メーカーですが、社員と何か一丸になって出来る達成感を感じたことがありませんでした。社員にしてもわれわれクラスの中小製造業に入社するわけですから、これまで何かやり遂げたという実績がない社員も多いわけです。たまたま、私の友人がメーカーに勤めており、ISO9001を取得したという話を聞きました。私もなにか目標が欲しかったのだと思います。ISO9001を取ろうと思ったのはそういった意外に単純な動機でした」
そこから、山陽プレス工業でのISO9001への取り組みが始まる.具体的に取り組みが始まったのは96年6月頃である。当初は講習会などに社員が出かけたり、毎週金曜日にプロジェクトチームが集まり討論を重ねた。
プロジェクトチームは管理課、製造課、金型課から1名づつ、それと社長、工場長以下、現場からの比較的若いメンバーから選ばれた8名。最初は現状の仕事の把握から始めたが、通常の仕事の流れと平行して行うわけだから、なかなか話が進まず、最初の半年は、社員もISO9001なんか取れるわけがない、という空気が強かったそうだ。
「当社ではコンサルティングの先生には頼まず、独自でISO9001を取得しました。これも自分たちで自発的にやるんだ、という意思の表われです。まずは自分たちの日常作業のマニュアル化から始まります。ISO9001はを取るのはなにかと大変だ、とか杓子定規だとか噂が先行していますが、実際にやってみると自分たちが普段やっている仕事の文書化、およびファイリング化だと感じました。ですから単純なことなんです。社長以下、見積もりひとつとっても標準化、文書化ができていない。普段の仕事をファイリング化すれば、自然とISO9001に近づくわけです」(檜垣社長)
いわば、山陽プレスの全社的なルール作りがISO9001という形になったということであろうか。
同社の品質システムを図1に示す。

仕事の流れは、作業標準というマニュアルにて文書化され、さらに各種管理表の元に細分化されている。管理表は管理課、製造課、金型課、それぞれ作成し、それを文書係りが取りまとめている。
現在、山陽プレスの仕事の流れはすべて、この作業標準のマニュアルに沿って行われている。(図2)

ISO9001取得後のメリット

ISO9001取得は97年の4月である。検査は2日間に渡り、検査官が現場を丹念に歩き、社員一人一人に今、作業標準のどの工程の作業をしているのか、声をかけて回った。全社的なプレス、金型、部品にわたる申請であったので全社員が一丸となって標準化の作成を行った。当時のことを振り返り、檜垣社長は語る。
「ISO9001の合格が確定したときは社員と一緒に泣きました。なにしろ、最後の2~3ヶ月は仕事が終わってから、毎日10時、11時まで作業標準書の作成を軸にして討論を重ね、文書を書き、また討論を重ね、修正を行いました。その達成感はほんとに素晴らしいものでした」
さらにISO9001取得後の効果について
「具体的に話しますと東芝さん、富士フィルムさんがISO9001取得後に新規に顧客となりました。製品発注に際し、普通は客先が必ず工場見学に来るものですが、オタクはISO9001の認定工場だから…ということで工場に来ませんでした。私もISO9001の効果がそんなところに現れるとは思っていませんでした。また、不良率は格段に減りました。製品出荷時の標準書もきめ細かく作られているので、不良品出荷率が下がったのです。
当然のことながら自動生産をしていれば必ず、不良は出ます。それが客先に行かなくなったということです」
最近ではプレス工場や金型工場でもISOを取る工場が多くなってきているが、山陽プレスのように、自発型は少ない。ほとんどが得意先メーカーからの指令によって取得というケースがほとんどであろう。
山陽プレスのISO9001取得事例は特に中小プレス製造業にとって画期的な出来事である。またそれを武器にして確実に得意先に展開している。
「当社の金型人員は5名いますが、全員が設計から製作、組立までが出来るようになっています。ISO9001のような、マニュアルに沿った標準化と長年の経験から来る技術力の蓄積がうちの最大の武器です」檜垣社長は語る。
カメラ、CD、MDなどの外観部品が多い山陽プレス工業はまさに近代化と従来の技術力の結集したプレス工場と言えよう。

表1 会社概要
山陽プレス工業株式会社
代表者取締役社長 檜垣 満
所在地本社
東京都北区滝野川6-12-4
TEL 03-3916-0651
茨城工場
茨城県稲敷郡阿見町大字福田字内野84-9
TEL 0298-89-2811
資本金1,100万円
事業内容オーディオ・光学機器・自動車部品・OA機器・建築金具などの異形絞りを中心とした精密部品の金型設計製造及びプレス部品製造
主な沿革昭和22年2月東京都荒川区町屋において事業を開始(社名・山陽プレス)。光学機器、カメラなどを主体とする金型及び精密プレス製品を製造。
昭和34年6月工場拡張のため、本社及び工場を現在地に移転。従来のプレス加工に加え新たに音響部品及びライターなどの特殊絞り製品を製造
昭和38年12月組織を変更し,山陽プレス工業(株)(資本金1,100万円)とする。
昭和53年9月大日本印刷(株)ミクロ事業部の協力を得て、時計部品のエッチング品順送プレスに着手。セイコー,シチズン、カシオなどの内部ケース及び部品を製造。
昭和59年11月工場拡張のため、茨城県稲敷郡に茨城工場を完成、フレキシブル基板の製造開始。
昭和63年7月茨城工場が安全優良事業場として、水戸労働基準監督署より監督署長賞を受ける。
平成4年4月東京都より中小企業新技術開発先端技術助成事業の認定を受ける。
平成8年4月東京都より中小企業新技術研究開発型助成事業の認定を受ける。
平成9年4月国際品質規格 ISO 9000を認定取得。

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